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“描ける”マンガ喫茶「漫画空間」

 マンガ喫茶といえば、壁一面のマンガ棚から数冊を抜き取り、それぞれ個室ブースにこもって読みふける――というのが一般的。東京都・高円寺に新しく誕生した「漫画空間」には個室ブースの代わりに作業台が並び、大体のお客さんが席について紙にペンを走らせている。ここは読むだけでなく、未経験者からプロまで誰もがマンガを制作できる、“描ける”マンガ喫茶なのだ。
店内にペン台が整然と並ぶマンガ喫茶――ここが「漫画空間」だ

店内にペン台が整然と並ぶマンガ喫茶――ここが「漫画空間」だ

 「漫画空間 東京高円寺店」は、愛知県名古屋市にある「漫画空間 名古屋本店」の東京第1号店として2月にオープンした。本店と同じく、店内のマンガを読めるだけではなく自らマンガを描けるマンガ喫茶となっている。東京には同人誌制作向けのカフェ「秋葉原カフェ」など、マンガのコワーキングスペースはいくつかあった。ただ、ジャンルやプロアマ問わず幅広い描き手に対応した施設は、ここが初めてになるとのこと。
「漫画空間」はJR高円寺駅の北口から徒歩1分、ロータリーを渡ってすぐのビルの2階にある。階段前の看板が目印(左)

「漫画空間」はJR高円寺駅の北口から徒歩1分、ロータリーを渡ってすぐのビルの2階にある。階段前の看板が目印(左)

日中は広い窓から日光が差し込んで開放的

日中は広い窓から日光が差し込んで開放的

 1時間1ドリンク付き600円からの料金を払えば、あとは描くも読むも自由。画材は自分のものを持参してもいいし、店側で無料貸出しを行っているので手ぶらでやってきてもいい(原稿用紙は1枚20円)。席はペン席15台とデジタル席4台(ペンタブ完備)があり、デジタル席では「ComicStudio」「CLIP STUDIO」「Photoshop」「SAI」といったソフトが使用可能。複合機もあってスキャンし放題など、ネームから仕上げまで全作業に対応した設備がそろっている。
ペン台は90センチ四方と奥行きは十分だ

ペン台は90センチ四方と奥行きは十分だ

デジタル台は4台

デジタル台は4台

画材の無料貸出しも行っている

画材の無料貸出しも行っている

 開店から1カ月以上たって利用者層はさまざま。島本和彦さんや古屋兎丸さん、青木俊直さんといったプロのマンガ家や、デビューを狙ってマンガ賞用の原稿を描くマンガ家、会社帰りに寄ってカラオケ屋感覚で描くのを楽しむ人、ネームづくりに初めて挑戦する未経験者……。人それぞれの「マンガを描く」が日々実践されている。
マンガはオーナーや店長がチョイスしたものが現在1000冊程度。今後コンセプトを決めた本棚を展開していくという

マンガはオーナーや店長がチョイスしたものが現在1000冊程度。今後コンセプトを決めた本棚を展開していくという

資料集もそろえてあるのも「描ける」マンガ喫茶ならではだ

資料集もそろえてあるのも「描ける」マンガ喫茶ならではだ

 こうした描ける場に加えて魅力的なのが、店長がプロのマンガ家であること。務めるのは「スパイシー・カフェガール」(宙出版)などの掲載作品を持つマンガ家・深谷陽さんだ。
店長を務める深谷陽さん

店長を務める深谷陽さん

 深谷さんはレジ打ちや接客もしながら、経験者としてお客さんへマンガのアドバイスもしてくれる。とある手の握り方・角度の描き方といった局所的なものから、完成した原稿への率直な感想といった大まかなものまで、教える内容は描き手に応じてさまざま。マンガ喫茶の料金で、こうしてプロへマンガの質問が直にできるのはありがたいことだ。
 4月からは新たに女性のマンガ家の店長も加わる。こちらの方はマンガの専門学校でComicStudioの授業を受け持っていたなど、デジタル面に詳しい。
深谷さんはカウンターで自身のマンガも制作している。完成原稿はカウンターの前に据え置き、お客さんが実際に見て参考にしたり、深谷さんに質問したりできるようになっている

深谷さんはカウンターで自身のマンガも制作している。完成原稿はカウンターの前に据え置き、お客さんが実際に見て参考にしたり、深谷さんに質問したりできるようになっている

 特に制作したいマンガがなくてもサクッと描くことに挑戦できる「ネーム講座」もじわじわ人気を広げてきているという。「好きだ」「……」「……」「ごめんなさい」の4つのセリフを使って2ページのネーム制作するもので、それに対し深谷さんが添削とアドバイスをしてくれる。

「ここで男性のコマから女性のコマにすぐ飛ぶより、間にほかのモチーフのディテールを入れたほうが気持ちが盛り上がるよ」と、深谷さんは効果的な構図やコマ割りなどを教えてくれる。自分の原稿を通してよりよいマンガ表現を学んだ時、「描く」楽しさや興奮がそこにはある。未経験者にこそぜひ体験してもらいたい。
過去に「ネーム講座」に挑戦した人のネーム。添削後のネームと並べておいてあり、比較していくだけでの構図やコマ割の勉強になりそうだ

過去に「ネーム講座」に挑戦した人のネーム。添削後のネームと並べておいてあり、比較していくだけでの構図やコマ割の勉強になりそうだ

 

 

「マンガ自体を楽しむことから始めて欲しい」と、描くことへのハードルの低さについて、深谷さん。
「背景や人物など全部を描けなきゃマンガは描いちゃいけないわけではなく、描きたいものがあったら描いてもいい。コマ割りと吹き出しで何かしゃべっていればもうマンガ。単純にマンガを好きになるなら描くことに実践してみて欲しい」
 お店ではキャラクター講座・ネーム講座など初心者にまで対応したマンガ講座も4月から開いていくそうだ。

 ほかにもいろんな描き手が集まることでいい出会いが生まれていって欲しいと深谷さんは話す。自宅で孤独な作業になりがちなアマチュアは、誰かに読んでもらうことでモチベーションを高める。ユニークなアイディアやストーリーを持っているけど絵が下手な人が、絵は得意だけどネタに困っている人と互いに補う。急遽アシスタントを探すことになったプロがその場で見つける……などなど。

 名古屋本店からはすでに6人のマンガ家が賞を取って担当がつき、現在連載中の人も1、2人ほどいるという。高円寺店もマンガ家たちのコミュニティとして機能することでさまざまな作家が育っていくかもしれない。単に「マンガ喫茶なのに描ける」といった新しい価値だけでなく、マンガ界を活性化するあらゆる可能性がこの“空間”には詰まっている。
 

 


【施設概要】
「漫画空間 東京高円寺店」
〒166-0002 東京都杉並区高円寺北2丁目6-1 湘和ビル2階

営業時間:平日11:00~23:00/土日祝11:00~23:00(深谷店長の出勤は月・水・木・日曜、女性店長の出勤は火・金・土曜)

利用料金:1時間600円(デジタル席は700円)/3時間以上からは30分延長につき100円ずつ加算、7時間以降は30分延長につき200円加算

URL:http://www.mangakukan.com/

[執筆=黒木貴啓(マンガナイト)]

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