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「トキワ荘から始まる少女マンガ」

 全7回の講座「漫画少年とトキワ荘の時代」の最終回「トキワ荘から始まる少女マンガ」が12月15日に東京都の森下文化センターで行われた。 石ノ森章太郎や赤塚不二夫、水野英子など、巨匠と呼ばれるトキワ荘のマンガ家たちを育て上げた名編集者・丸山昭がトキワ荘とゆかりのあるマンガ家をゲストに迎え、当時の貴重なエピソードを語ってきた本講座。

最終回は、歴史ロマン『白いトロイカ』などを描いたトキワ荘メンバーの紅一点・水野英子が登壇し、トキワ荘のエピソードを交えつつ当時の少女漫画事情を振り返った。

「石森(イシモリ:石ノ森の当時の愛称)さんが苦し紛れで書いたことが少女マンガの幅を広げたんです」(丸山)
登壇した丸山昭(右)と水野英子(左)

登壇した丸山昭(右)と水野英子(左)


 当時の女性マンガ家は長谷川町子くらいしかおらず、少女マンガもほとんど男性マンガ家が手がけており、新人男性マンガ家の活躍の場は、ベテランたちがせめぎ合う少年誌よりも少女マンガ誌となっていた。

また読者の少女たちにとって、年配の男性が描く少女マンガはおもしろくない。セリフの言葉遣いなど、年の近い新人漫画家の作品のほうが波長が合うとして人気が出やすかったことが背景にある。
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 こうした中、講談社の少女向け雑誌『少女クラブ』の編集部にいた丸山は1955年にトキワ荘で石ノ森や赤塚、水野らと運命的な出会いを果たし彼らを担当する。
「始めのころ石森さんは少女が描けず、僕も少女クラブ編集部に入りたてで女性についてよく知りませんでした。だから『女の子が出ない作品を描こう!』と提案したんです」
 この大胆なアドバイスに会場には笑いが起こった。丸山の言葉を受けた石ノ森は『まだらのひも』(原作:コナン・ドイル)や『黒猫』(原作:エドガー・アラン・ポー)などミステリー作品を発表する。「上品でキレイ」なイメージの少女誌において型破りな存在だったそうだ。

「『黒猫』の墨ずりを使うといったミステリーの表現は、雑誌のイメージに反発的だけどとても斬新でした。女性マンガ家たちはこれを読んで『これが許されるなら、私もやっていいんだ』と続いていった気がします」(丸山)

 少女マンガにおいて過激で不気味な描写・シーンは現代では珍しくないが、その開拓者がトキワ荘時代の石ノ森で、しかも新人の苦し紛れから生まれたというのは驚きだ。
tokiwa03  またトークの後半では、水野・石ノ森・赤塚不二夫の3人が「U・マイア」というペンネームで少女マンガを合作した際のエピソードを水野が語った。
 これは3人を担当していた丸山のアイデアで、U・マイアは1958年に少女クラブで3つの作品を発表。水野はこれをきっかけに上京し、約7ヶ月間トキワ荘に入居することとなる。
 同作には、それまでの少女マンガにはない派手なビジュアルがあり、ストーリーのスケールもずっと大きかった。作家クレジットはU・マイヤのみで3人の名前は伏せられていたため、「U・マイアって誰だ?」と業界で話題になったそうだ。後の巨匠3人が駆け出しの頃に、こっそり共同作品を発表して世間を賑わせていたのは興味深い。

「少女マンガの色んな可能性を広げちゃう合作だった」(水野)。

「少女マンガの色んな可能性を広げちゃう合作だった」(水野)。


 まず3人は、原作に当時はまだ非常に珍しかったオペラを取り上げることにする。
1作目『赤い火と黒かみ』はオペラ『サムソンとデリラ』を題材に、英雄と美女の大きなロマンスを展開。主人公2人はキャラクターをかわいく描ける水野が、倒れてくる不気味な巨神像やライオンとの格闘といったスペクタルシーンや個性的なキャラは石ノ森が、背景は赤塚がそれぞれ描いた。
U・マイヤの第1作目『赤い火と黒かみ』をスクリーンに写して解説

U・マイヤの第1作目『赤い火と黒かみ』をスクリーンに写して解説

 戦後の少女マンガは貧しい暮らしの女の子たちへ夢を与えるため、「お花いっぱい」「お目めキラキラ」といった豪華な世界を描くことが主流だった。その風潮が残る中でオペラを題材にし、絵よりもストーリーを重視したのは少女マンガ史で非常に画期的だったと水野は話す。トキワ組が少女マンガに与えた影響は図り知れない。

 1作目を描いている時、山口県下関市に住んでいた水野は東京組と原稿を郵送し合いながら合作したなど、U・マイアに関わる貴重なエピソードを聞けた本講座。ここで語られた話は12月に水野が自費出版した書籍『U・マイアって誰? 現場からの報告』にも書かれている。当時の原稿やイラストを見れる上、水野による石ノ森・赤塚の表現についての解説も豊富なので、是非チェックして欲しい。
『U・マイアって誰? 現場からの報告』(サイト「水野英子の部屋」より)

『U・マイアって誰? 現場からの報告』(サイト「水野英子の部屋」より)


 マンガ史におけるトキワ荘メンバーの存在の大きさを、少女マンガの可能性を広げたという点で改めて思い知らされた本講座。私たちが今日楽しんでいる少女マンガのあんな表現もこんな表現も、もしかしたらトキワ荘から始まり脈々と受け継がれてきたものかもしれない。
[マンガナイト・黒木貴啓]

■関連リンク
森下文化センター:http://www.kcf.or.jp/morishita/
水野英子の部屋:http://www5f.biglobe.ne.jp/~hideko/

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