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家庭の反応、自身の変化

手塚:登場人物の家庭環境とかも描かれているので、若い子にもわかりやすいと思います。松田さんの家庭も作中に反映されることがあるんじゃないですか。旦那様も漫画に詳しい方(編集者の新保信長氏)ですから、いろいろ言われたりしませんか。

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松田:漫画の内容に関しては、「面白い」という言葉以外、受けつけないと言っているんですが(笑)、ポロっと言われたときは聞いてしまいます。どうしても言いたいことがあるようなときは聞きますが、基本的に文句は受け付けてません。相当我慢してくれていると思いますよ。

山内:手塚先生のご家庭はどうでしたか?

手塚:母は仕事のことには口を出しませんでした。母も漫画が好きなほうではありますけど、父にもプライドがあるので、言わないようにしていたのでしょうね。 兄(手塚眞氏)は父に「『ブラック・ジャック』どう?」とか聞かれたみたいでした。私は当時、父が漫画家ということに興味がなかったので、聞かれても「面白くない」とか平気で言っていましたね。特に『ドン・ドラキュラ』とか『プライム・ローズ』、読者に媚びている感じが見えて「あんなお色気お姉ちゃん出さなくてもいいのに…」と。でも、今思うと“戦闘女子もの”としてはあの時代にすでに描いていて早かったんだなと。 『重版出来!』を描かれてから、松田先生ご自身が変わられたこととかありますか。

松田:今更ですが、一生懸命描くようになりました。それまで人のこと一切考えずに、好き勝手に描いていたので。やっぱり『重版出来!』を描く前に3・11があって…それで、みんなが喜んでくれるものを自分なりに描けたらいいな、と思いました。心構えは変わりましたね。

手塚:一巻で、主人公が面接で言うセリフと一緒ですね。「みんながわくわくするところで働きたい」という。これは松田先生の言葉だと、勝手に読者として思ったのですけど。

松田:本当だ!主人公の黒沢は今まで描いたことがタイプの人。運動をやっている人が知り合いにいなくて(主人公・黒沢心は、柔道経験者)、描いていてすごく新鮮なんです。いいことをはっきり言う子だから、「この子いい子だわ」と思いながら描いています。自分もこうであったらよかったな、という健全な部分も出ていると思いますね。

手塚:いろいろな作家さんが作中には出てきていますが、自分は一番このキャラクターに近いな、という人はいますか。

松田:作家ではないけれど、持ち込みの田町君。あの子は自分ですね。

手塚:すごいイヤな奴(笑)

松田:「お前、目を覚ませ」と思いながら、描いていたんですけど。過去の自分は何でも人のせいにして、直視しないで、問題を先送りにしてました。頑張れよと思いながら描いてました。

手塚:でも、描くのは自分ですよね。この時代の自分。

松田:他だと漫画の中で、高畑一寸さんという漫画家さんが「自分が描けると思っていないものを描かせてもらえた」と言っていて、それは『レタスバーガー』を描いたときに私自身が思っていたことですね。 自分が本当に好きで描きたい世界は「着物を着た時代物で文学的な世界」だと思っていて、でもそこは私が描くことを望まれているものではない。みんなが楽しいもの、わかりやすいものが求められているのかなと『レタスバーガー』の後にわかったんです。自分が求められるものを漫画家として描いていこうと思いました。

手塚:それが、変わられたところですね。あの持ち込みシーンを読んだ新人漫画家さんたちは、こういう態度で臨まないといけないんだな、と勉強になったんじゃないでしょうか。

山内:実際に、デビュー前の方の持ち込み原稿を私達編集者はその方の目の前で読んで感想をお伝えするんですけど、こちらが原稿を読んでいるときに、ケータイをいじっていらしたりだとか、別の漫画雑誌を読んでいる方もたまにいらっしゃいます。

手塚:「読んでください」と持ってきているのにですか?想像できないんですけど。

山内:恥ずかしさや緊張で、間が持たないとか、自分の漫画を読まれているところを正視できないんだろうなぁとは思うんですが…編集者は読んだときにわからない内容があると、原稿を行きつ戻りつするんですよね。読みながら笑ったりもするし。だから持ち込みの方は、「このページがわかりづらかったかな」とか「ここは受けるんだな」とか、そういうところを見ていると得すると思うんです。読者の反応を知ろうとする気持ちがある人とない人ではぜんぜん違う、というようなことも『重版出来!』の中には入れていただいています。

手塚:気持ちがソワソワするっていうのはわかるんですけど。ケータイをいじるなんて。いまどきなんだな、と思わなくもないですが、そこはじっと我慢じゃないのか、と。

山内:芸術家と漫画家の違いは、芸術家はたとえば絵画一枚を一人の方にいくらで買い取ってもらえるかですが、漫画家は五百円の単行本を一人でも多くの人に読んでもらえるか、の仕事です。だから、その最初の読者になる編集者に対して、「もう無理!」と思っている時点で、大勢の読者の方に対して恥ずかしくて自分の漫画を読ませられないということになっちゃうと思うんですよね。

松田:私の二十代前半のことじゃないかと。ごめんなさい(笑)

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 多様なキャラクターについて

手塚:次の巻が出るので、楽しみです。

松田:四月十日に五巻が発売します。

手塚:次が読みたくなる漫画というのが、一番面白いですからね。あと絵が変わられましたよね。

松田:あまり意識はしていなかったんですけど、描きやすいように描いていたら、頭身は縮みましたね。輪郭線も太く描いてます。背景処理は自分のなかで整理中なんですけれど、人間自体は描きやすいです。

手塚:浦沢直樹先生(『Crossroad』第一回ゲスト)は、頭の中でできあがった原稿を紙に描き写しているだけだそうです。でも、頭の中で傑作だと思ったものを紙に写したときに、そうでもないな…と思ってしまうそうなんですが、松田先生のあれだけ多様なキャラクターはどのようにできてくるんですか。

松田:私はキャラ単体で出てくることはなくて、シーンが浮かぶので、そのシーンをつないでこういうこと言っているのかな、という想像をめぐらします。それからページ数等調整して、エピソードの配置をかえたり…その行程がうまく流れるときもあるし、この回はキツかったなと思ってたら誉められる事もあるので(笑)諦めずにしっかりやっていこうと思っています。

手塚:キャラクターの数はものすごい増えていって、ひとりひとり個性がありますよね。これからどれくらい、キャラクターは増えていくのか気になるところです。

構想されている物語の終着点に向けて、お体大事にして、描ききってください。ありがとうございました。

松田:こちらこそ、ありがとうございました。楽しかったです。

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【松田奈緒子プロフィール】 アシスタント生活7年後、「コーラス」(集英社)にてデビュー。代表作は『レタスバーガープリーズ.OK,OK!』 『少女漫画』『えへん、龍之介』他。趣味は猫愛(ルビ・ねこめ)でと歌舞伎鑑賞。

【手塚るみ子 プロフィール】 プランニングプロデューサー。 東京都出身。広告代理店を経て、手塚作品をもとに独自の企画を創作するプランナーとして活動。音楽レーベルMusicRobita主宰。 手塚プロダクション取締役。父は漫画家の手塚治虫。著作に「オサムシに伝えて」、「ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘」等。


 [執筆・撮影・木瀬谷カチエ/近藤哲也]

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