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言われたとおりにやろうと思っても、できないんです(笑)

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手塚:松田先生の絵柄は独特ですよね。最初観たとき、少女漫画雑誌の中にあの絵が入っているのにすごく違和感があったんですよ。

松田:そうですよね。しかも『コーラス』の中に。

手塚:きらきらした女性誌の絵のなかに、“どっさーん!”とした絵柄の漫画があって、びっくりしました。でも、すごくインパクトがあって、「この人、何なんだろう」と思ってました。話に恋愛は出てくるんだけれど、他の少女漫画の恋愛とは違って、主人公の女性に、ものすごく頑な感じがありましたね。

松田:『コーラス』という雑誌には当時、くらもちふさこ先生、一条ゆかり先生、槇村さとる先生が描かれていて、土台が盤石だったんですよ。新人のひとりが変なことをしても、ぜんぜん問題なかったんです。だから、本当に好きにさせてもらって、ラッキーでした。このときのためにデビューが遅かったのか、と思いました。

手塚:ご自身の作風と、雑誌の傾向が違うと編集者に修正とかされないんですか。

松田:絵に関してはすごく言われました。言われ続けで(笑)基本、少女漫画は、“かわいくて独特”はいいんですが、“変で独特”というのは許されないんです。作風の味だけでやっていくには、厳しい世界だったんですね。 あと、線が“ツルツルのピカピカ”でないと、読者さんが読んでくれない傾向がありました。私はわりとザクザクした線なので、その辺が課題だろうなと思いつつ、ツルツルの線は描けないなと思って…『東北沢5号』で頑張ってみたんですが、厳しかったですね。

手塚:確かに『東北沢5号』は色々と考えて描いてらっしゃるんだろうなと感じました。 今は思えば松田先生の漫画は、『重版出来!』に出てくる「中田さん」という新人作家さんみたいに「汚い絵だけど、すごい作品だ」と思われる類のものですね。

松田:だったらいいんですけど、私の場合は特にすごいとも言われてなかった(笑)。 今、全体的に漫画界は、絵がきれいな人が重宝されていますよね。自分の絵は味だけで成り立っているので(笑)、私のような味派の漫画家さんはデビューしづらい状況かもしれなくて、エールを送りたくて。それもあって、ああいうキャラクターが生まれました。絵の学校にも行ってないし、雑なんだけど、何かいいと言われる人が漫画の中にいてもいいなと思って描きました。

手塚:憧れていた漫画家に実際になれたけど、デビュー後、編集にいろいろ言われながら描いて雑誌に載る、というところまでの大変さもあったのではないかと思います。

松田:いろいろありました。初連載の『レタスバーガープリーズ. OK, OK!』のときは「恋愛物を描かないと載せられない」と言われたんです。そこで「恋愛もの」ではなくて「ファミリーもの」という意識で描いたんですが、そうしたらアンケートで奇跡的に一位。すぐにシリーズ連載が始まったんです。 絵柄にいろいろ言われたんですが、ありがたい事に人気があったので、そこに支えられて描いていけました。自分の好きに描いて、喜んでくださる人が増えて本当にうれしかったです。編集さんが大切に一から育ててくださったタイプの作品ではなく、ドンといって、バーッと走っていった感じだったんですね。それが許されていたのは幸福だったんですけれど。それで編集さんも「この人は指導しても育つタイプじゃないから、放っといたほうがいいんじゃないか」と思われたんじゃないですかね。

手塚:ある意味、すごく頑に自分を持ってらっしゃるから。

松田:そうなんです。言われたとおりにやろうと思っても、できないんです(笑)。

手塚:その後はそんなに苦労されることはなかったんですか。

松田:なかったほうだと思います。たぶん時代もよかったんです。『レタス』が連載になってから以降は、勢いで挫折なくやってこられました。 でも『重版出来!』を描く前頃自分の描くものに飽きたときがあって…『東北沢5号』の時期ですね。私が描かなくても、誰かがこれ描くかな、と思えたりしてしまって、何だか自分で自分の作品コピーを描いている気がしてしまって。自分自身でノれずに描いてた『東北沢5号』があまり評判が良くなくて、売り上げも悪くて、楽しくなかったですね。そのときに、たまたま現担当編集の山内さんから声をかけていただいて、思い切って青年誌でやってみっか、と思ったんです。

手塚:『東北沢5号』のころが一番の過渡期だったんですね。いろいろなことを言われて、いろいろ取り入れようとして、自分を無くしている感じの時期だった…。

松田:そうですね。一時期、少女漫画誌でちゃんと勝負をしてみたい、という気持ちもあって、少女漫画向きではないとずっと言われながら、少女漫画に対する憧れは強くて、少女漫画に合わせちゃったんですよね。合わせなきゃもうちょっと何とかなったのかなと思うんですけれど。ほんとに勉強になりました。

これまでの出版業界漫画の名作との違い

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手塚:山内さんが編集者として、松田先生にお声かけしようと思ったのは、どうしてなんですか?

山内:私は『コーラス』で『レタスバーガープリーズ. OK, OK!』の連載が始まった時から松田さんの漫画を読んでいました。 少女漫画界のいわゆる王道的漫画が誌面に並ぶ中に、主人公が美少女顔ではない松田さんの作品があったので「これは不思議な漫画だぞ」と思ったんですよね。単行本もすごくパンチがある装丁だったじゃないですか。そうした不思議なものを描く漫画家さんはどういう方だろうという思いがあって、共通の知り合いであるデザイナーさんに会わせていただいたんですよ。

手塚:めぐり合わせですね。今回の『重版出来!』の企画は、おふたりで考えて出されたんですか?

松田:最初にいくつか案があって、その中で「働く女性、編集者の話がいいですかね」という話になったんです。私の妹と夫が編集者なんで、その業界の話なら描けるかなと思ったんですね。 最初、ファッション誌の編集者の話にしようかと思っていました。でも、青年誌でファッション誌はわかりづらいところがあるんじゃないか…と思って、漫画の編集者にしました。

手塚:出版業界ものだと、過去に『編集王』(土田世紀)や『働きマン』(安野モヨコ)がありますね。

山内:はい。『編集王』や『働きマン』という「編集者漫画」の名作があるなかで、出版業界というジャンルを選んだわけなのですが、私はその二作が大好きなので、中途半端な編集者漫画を作ったら、その二作に恥じると思ったんです。 でも、その二作とも連載当時の時代を反映させていますよね。『働きマン』のほうが最近の作品ですけれど、とはいえ今よりもっと景気が良い時代でした。今、出版業界を舞台にした漫画を作るならば、漫画家や編集者だけではなく、出版社の中で他の仕事をしている人や、印刷所や製版所で働く方、書店員さんたちも出てくるべきだと思ったんです。編者者だけを描くよりも、出版物をいろいろな人が関わって作っていく“チームワーク”を描くほうが、他の業種の方々も読んでいて共感しやすいんじゃないかな、と。

手塚:『編集王』は男くさい作品ですよね。90年代の漫画業界のお話ですからね。

山内:今、私は男性漫画誌の部署にいますが、男女関係なく働いているので、その空気感を伝えられるといいな、とも思いました。また、製版所のオペレーターさんの中にも女性はいますし、“男だけの職場”という感じはしないんですよね。…というようなことを、松田さんも実際に目にしないと、イメージできないだろうと思って、連載前に取材を重ねました。そして、『重版出来!』の形になったんですよね。

手塚:松田先生の作品は、今の出版業界の裏側を描きながら、作家と編集者、人間同士の関係性まで踏み込んで描いていますよね。ご本人も漫画家でいらっしゃるから、自分のいろいろな体験を取り入れて、キャラクターにしているんだろうな、と思います。 製版所も昔は活版でやっていて、すごくアナログな時代でしたが、今はデータですからね。製版の現状が描かれていたのは、読んでいて新鮮でしたね。この時代だから、データで見ていくんだと。あと、書店に営業をかけるとは、どういうことなのか、すごくわかりやすかったです。書店さんがアイディアを下さったりとか、書店さんが推してくれるから、この作品を売っていこう、みたいなやりとりがあることも驚きでした。その点は、『編集王』『働きマン』よりわかりやすくて。読者の若い人たちも、どのように本が流れてくるのかが、わかるんだろうな、と思いました。

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