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「“愛”って… すごく不気味だね どこにでもゴロゴロしてて… それだけで何でも出来てしまえるなんて とても…気持ち悪くない?」

 なんとも胸に引っかかるセリフ。1970~80年代に活躍したマンガ家・三原順の作品「Sons」で、主人公の少年が放つ一言だ。5月31日まで米沢嘉博記念図書館で開催中の展覧会「没後20年展 三原順復活祭」のメインビジュアルには、このセリフが大きく描かれている。

 同展は1995年に三原順が亡くなってから20年の節目に、代表作の原画や遺品を通して彼女の才能を再確認しようという展覧会だ。1988年生まれの筆者は、恥ずかしながら同展が企画されるまで三原順という作家を知らなかった。それでも告知のメインビジュアルを見て、素晴らしいと謳われがちな“愛”の暗い一面を言い当てた冒頭のセリフに、強い共感を覚えた。

 三原順とはどのような作家なのだろう。そして、今どうして三原順に触れるべきなのか。展示会場に足を運んで展示担当者に話をうかがいながら、その魅力に迫ってきた。

米沢嘉博記念図書館外観

米沢嘉博記念図書館外観

会場内

会場内

 

同展では三原順のプロフィールや全著作物、没後のファンたちによる復興活動の年表、全会期あわせて原画約250点を展示。それぞれに添えられた解説を通して、三原順という人物や作品の特徴を深く知ることができる。会期は4つに分かれており、第1期(2月6日~3月2日)では出世作「はみだしっ子」シリーズとその主人公のひとり、グレアムについて、第2期(3月6日~4月6日)では同作のほかの主人公・アンジーと初期短編集について、というように、一部展示を入れ替えて異なるテーマを展開する。筆者が行ったときは第1期だった。

三原順の代表作の1つ「はみだしっ子」

三原順の代表作の1つ「はみだしっ子」

 

「はみだしっ子」シリーズは1975~1981年にマンガ誌「花とゆめ」で連載。それぞれ親元を離れた4人の少年グレアム、アンジー、サーニン、マックスが、親ではなく本当の愛をくれる人をもとめて一緒に放浪生活を続け、成長していく物語だ。少女マンガ誌らしいコミカルな描写を交えながら、「人は肉親のように本来親しいはずの人間とであっても、どうしても相容れないことがある」という世界観が描かれ、熱狂的な読者を獲得した。

「別冊花とゆめ」創刊号のカラー口絵

はみだしっ子の主人公の1人・グレアム。こちらは「別冊花とゆめ」創刊号のカラー口絵

 

会場に置かれたトランク(三原順の私物)には「はみだしっ子」の付録やプレゼントなど関連グッズがぎっしり詰まっていて、当時の読者たちから大きな人気を得ていたことがわかる。原画の中には「別冊花とゆめ」の創刊号(1977年)で飾ったというカラー口絵が。同誌では「グレアム大特集」のようにキャラ単独の特集が何度も組まれていたそうだ。

三原順私物のトランクに詰め込まれた、「はみだしっ子」や「ルーとソロモン」グッズ

三原順私物のトランクに詰め込まれた、「はみだしっ子」や「ルーとソロモン」グッズ

壁に掲げられた原画と、「三原順・復活の流れ」をまとめた年表

壁に掲げられた原画と、「三原順・復活の流れ」をまとめた年表

 

三原作品がどれだけ人の心を掴むものなのかは、年表「三原順・復活の流れ」で知ることができる。彼女は「はみだしっ子」以降も数々の名作を生み出したが、亡くなる直前はほとんどの単行本が入手困難という状況。1995年に42歳で病没した直後は出版界でさほど大きく取り上げられることもなく、世の中から忘れ去られるかのような存在にあった。

 しかしファンが訃報を知るや、三原順の同人誌を作るなどして追悼し、20年にわたって「三原順・復活」とも言うべき活動を続けてきた。公式サイトの開設、全集の発売や復刊を求める署名運動、展示会の実施など。2000年代には「復刊ドットコム」(当時「ブッキング」)の復刊第1号「かくれちゃったの だぁれだ」を皮切りに続々と単行本が復刊され、2002年にはとうとう未収録作品などをまとめた新刊まで出版。2011年には既刊の単行本がすべて文庫化された。年表を通し、作品を世に遺そうとするファンの意志と、それが今回の展示会まで結びついているのを確認すると、三原順という作家の影響力に感嘆せずにはいられない。

没後に刊行された三原順の関連書籍の数々。三原順特集を行った雑誌や追悼同人誌、新刊の豪華版など

没後に刊行された三原順の関連書籍の数々。三原順特集を行った雑誌や追悼同人誌、新刊の豪華版など

 

2015年には次々と電子書籍化も行われて気軽に読めるようになった三原作品には、今の社会問題に通じるような題材が度々登場する。その先鋭性について主催の米沢嘉博記念図書館のスタッフ・ヤマダトモコさんは、「どの作品を読んでも“今”を考えさせられる」と舌を巻く。

 例えば「はみだしっ子」の4人の少年は、現代でこそよく扱われるような家庭問題をそれぞれ抱えている。グレアムは父から高圧的な教育を受け、アンジーは母から育児放棄され、サーニンは母を亡くして失語症になり、マックスは酒乱の父親から虐待のうえ殺されかけたという過去を持つ。彼らを外からの目線ではなく、内側から描きながら、深刻な問題と向き合っている。

「大人になった今読み返すとびっくりする発見がいっぱいあります。また子どものころは子どもたちの目線で読んでいたけど、今は登場人物の大人たちの立場もわかる。大人でも悪人でも、それぞれの価値観がしっかりと描かれていて驚きます」(ヤマダ)

「はみだしっ子」後半で4人は裁判に挑むことになるが、そこでは当時まだ日本になかった陪審員制(裁判員制)が描かれる

「はみだしっ子」後半で4人は裁判に挑むことになるが、そこでは当時まだ日本になかった陪審員制(裁判員制)が描かれる

 

ほかにも「Die Energie 5.2☆11.8」(1982年)は原子力発電所の幹部職員が主人公。「原発問題というのは、原発に勤める人と反対する人、どちらの立場も考えた上で、折り合いを付けなくてはならないことを教えてくれる」(ヤマダ)とのこと。「ムーン・ライティング」(1984年)は、狼男の祖父に憧れていた美しい少年が、なぜか豚男になってしまう悲喜劇を描いた作品だが、「今見ると、ストーリーの伏線に、技術の進化に着いていけなくなるプログラマーの苦悩を描いていて驚いた」(ヤマダ)とも。IT社会の現代において共感する人は多そうだ。

「こうした問題は、描こうとすると紋切り型な結末になりそう。なのに、三原さんは早くから扱っている上、折れずにまじめに向きあい、作品に落としこんでいます。三原作品を読んでいると、考えなければならない社会問題について三原さんと一緒に考えることができるはずです」(ヤマダ)

作中に登場する「愚者の祭り」について、2ページにわたってびっしり研究メモがと書かれている三原順のノート。思慮の深さがうかがえる

作中に登場する「愚者の祭り」について、2ページにわたってびっしり研究メモがと書かれている三原順のノート。思慮の深さがうかがえる

 

 今年3月13日には白泉社から20冊目となる文庫「三原作品集 LAST PIECE」、4月には河出書房新社から総特集本も発売される予定で、三原順の世界はますます復活しつつある。全作品に触れられる状況を作るまで20年尽力してきたファンの方々へ敬意を払いつつ、三原作品を通してあらゆる現代の問題について考えたい。会場の米沢嘉博記念図書館の閲覧室(1日300円)には、文庫版全巻を始め三原順の関連書籍が設置されている。展示と一緒に観るのもオススメだ。

会場の感想ノート

会場の感想ノート。平成生まれだという人が、母が持っている三原作品を子どものころから読んでいてファンであると、グレアムの似顔絵付きで感想を書き込んでいた

[執筆=黒木貴啓(マンガナイト)]


▼展覧会情報
「~没後20年展~ 三原順 復活祭」公式サイト
http://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/exh-miharajun.html

■会期 2015年2月6日(金)~5月31日(日)

◎第一期:2月6日(金)~3月2日(月)
 グレアムと「はみだしっ子」特集
◎第二期:3月6日(金)~4月6日(月)
 アンジーと初期短編特集
◎第三期:4月10日(金)~4月29日(水・祝)
 サーニンと「ルーとソロモン」「ムーン・ライティング」「Sons」
◎第四期:5月1日(金)~5月31日(日)
 マックスと「X Day」ほか後期作品特集

■ 営業時間 平日(月・金のみ)14:00~20:00、土・日・祝12:00~18:00
 休館日 火・水・木、年末年始、特別整理期間

■ 会場 米沢嘉博記念図書館 東京都千代田区猿楽町1-7-1

■ 入場料 無料


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