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映画好きで知られる漫画家・巻来功士。
巻来功士が最新の映画を観賞し、心臓がピクピクするほど感動及び興奮、または憤慨?した作品”心ぴく映画”を紹介するのが 『功士の心ぴく映画コラム』です。

第六回目にご紹介する映画は『アメリカン・スナイパー』。本年度アカデミー賞6部門ノミネート(作品賞・主演男優賞含む)、あの『アバター』を超えて2015年最高のオープニング成績を記録、全米興行ランキング3週連続NO.1を獲得、クリント・イーストウッド監督作品史上最大ヒットにして最高傑作。伝説のスナイパーの半生を描く衝撃の実話の映画化作品です。

日本公開2日間(2/21&2/22)では、3億3200万円を突破し週末興行ランキング1位獲得。注目の作品を観た巻来巧士の心ぴく度は?

【STORY】
舞台は9.11以降のイラク戦争。米海軍特殊部隊ネイビー・シールズに入隊を果たしたクリスが命じられた任務は「どんなに過酷な状況でも仲間を必ず守ること」。その狙撃の精度で多くの仲間を救ったクリスは “レジェンド”の異名を轟かせるほどになる。しかし、彼の腕前は敵の知るところとなり、“悪魔”と恐れられ、その首には18万ドルの賞金を掛けられ、反乱兵たちの標的となってしまう。一方、クリスの無事を願い続ける家族。平穏な家族との生活と想像を絶する極限状況の戦地…過酷なイラク遠征は4回。愛する家族を国に残し、終わりのない戦争は幾度となく、彼を戦場に向かわせ、度重なる戦地への遠征は、クリスの心を序々に蝕んでいくのだった…。息つく暇もない極限の緊迫感で誰もの心を打ち抜く、伝説的スナイパーの半生を描いた衝撃の実話。世界を震わせる真実のドラマが幕を開ける――。

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第6回「功士の心ぴく(心臓がぴくぴくするほど感動した?)映画コラム」は巨匠クリント・イーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』です!イラク戦争で160人の敵を撃ち殺したネイビー・シールズのスナイパー、クリス・カイルの自伝を基に作られた映画です。

いきなりイラク人の母子をライフルで狙う場面から始まります。素晴らしく緊張感に満ちた演出で、瞬時に心をわし掴みにされました。そこから、なぜクリスがこの場にいる事になったのか?経緯が語られてゆきます。その後、再びイラクの場面に戻ってからの、怒濤の戦闘シーンの連続。作戦の合間に本土に帰還し、また戦場に舞い戻り、人間を狙撃し続けるカイル。この繰り返しの演出は、戦場を日常として捉えなければ生きてゆけない兵士の精神状態に、観客を共感させてゆきます。そして徐々に観客も、カイルが戦場にいる場面より、アメリカ本土に帰って、家族と共に休息している風景に不安を感じるようになってゆくのです。

こんな演出なので、フラットな状態で本作品を鑑賞できれば大丈夫ですが、ある種の思い込みで見る観客(通常のミリタリーアクションでカタルシスを得たいと思った観客の方など・・)は、居心地が悪くなってゆくのは当然の事。つまり、イーストウッド監督は、PTSD(神経外傷後ストレス障害)の症例を丁寧に描く事によって、戦争の現実全体を描こうとしているのですから。

戦争の本質、マッチョイズムと正義という御題目が平然と語られ始めた時に戦争(人殺し)が正当化(国家としても個人としても)されるのだという事を・・。その結果、精神が崩壊した兵士が帰還し、アメリカ本土そのものが不安定になるという事実をも突きつけます。しかし、そんな状態のアメリカだからこそ、現在、本作のような深く人間を見つめる素晴らしい映画が量産され始めているという皮肉な現実があります。まるで、ベトナム戦争の傷から、人の生き様を深く見つめるアメリカン・ニューシネマが生まれたように。そういう意味でも、この映画は、まさにアメリカン・ニューシネマの落とし子、いや、そのものだと言って過言ではありません。

アメリカン・ニューシネマは、60~70年代、明らかにベトナム戦争の影響下で発生してきた、新しい映画の波でした。そこに、描かれたテーマは、戦い(戦争)に正義も悪もない、どんな状況であるにせよ他人の命を奪ったものは、それなりの代償を払う事になる。簡単にいえば全てそういう内容でした。どの作品も皆スッキリしません。それは当然です。アメリカン・ニューシネマは、カタルシスを描くよりも社会(問題)を描く事に力点を置いた作品群なのですから。その波を、幼いころから受け続けた私は、その目線の映画が大好物になりました。アクション映画は、ヒーロー物より社会派物(「ローリングサンダー」「ドッグソルジャー」etc.)やノワール物(「グッドフェローズ」「スカーフェイス」etc.)。そういう意味でも、この「アメリカン・スナイパー」は涎が出るほど好きな作品です。

主人公カイルは、敵を殺すたびに少しずつ精神が崩壊していきます。それをなんとか止める為に罪悪感を消そうと、敵を「野蛮人」と決めつけます。決めつけないと彼らを殺している自分を正当化できないからです。それは、どの時代の戦争でも起こっていた真実です。敵を人と見ない事により、人を殺すことに専念することが出来る。それが、戦争の実態だとこの映画は語ります。そんなカイルの目線で描かれている為に、敵兵にはキャラクターがほとんど与えられていません。

戦争PTSDのほとんどの患者は、戦場では正気に戻り、平和な故郷で錯乱する傾向にあります。戦場では味方、敵、そのどちらかにハッキリと色分けされた関係が、単純な世界なのですが、平和な故郷では、味方、敵と色分けできるのは少数で、ほとんどが赤の他人です。その全てが、油断していると後ろから刺してくるかもしれない敵に思えてくるのです。

後半の戦場のシーン、西部劇「リオ・ブラボー」を想像させる要塞攻防戦の描写に我々は心躍ります。事実カイルの心は躍っているのです。大戦闘シーンの中、敵スナイパーとの一騎打ちは、まさにアクション映画の真骨頂です。その後、故郷に帰った後の主人公の色あせ具合の徹底した描写。監督が狙った落差演出は見事に成功しています!観客のため息、その虚無感こそ監督が観客に体験させたかった戦争そのものなのですから。もしも続編が作られることになればアメリカン・ニューシネマの名作(「ソルジャーボーイ」「ローリングサンダー」「タクシードライバー」etc.)のようなストーリーになるのは明らかです(決して、セガール映画のようにはなりません)。全てPISDを描いた映画です。

主人公カイルが、いずれそれらの映画の主人公達と同じ運命を辿る事になるであろうと思えてしまう事が、この映画が、社会派戦争映画の傑作であるという事を示しています。撮影中に、ある悲劇が起こってしまい、脚本の修正が成されたという事もあり、ラストのシーンが長過ぎたという指摘は納得する所もあるのですが、それでも直、今見るべき映画だという事には変わりありません。なにせ、その悲劇そのものが戦争PTSDによるものですから・・。事実として、戦場を経験した兵士の4人に一人は、重度なPTSDを発症しているといわれています。軽度な患者はどれだけいるのか想像もつきません。それが戦争の現実なのです。この映画を見て、物足りなさを感じた人、つまらないと感じた人は、もう一度、どこに、なぜそう感じたか、再考してみてください。そこが戦争の恐ろしさ、虚しさ、そして楽しさ(愚かしさ)を描いている場面なのですから。

ラストのエンドロールはその事を、観客に提示している素晴らしい演出です。皆さん是非ご覧ください。いまでこそ日本人全てが見るべき映画だと思います。超お薦めの、反戦映画の傑作です。

『アメリカン・スナイパー』の心ぴく度、85点です!

『アメリカン・スナイパー』
出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラージェイク・マクドーマン、ルーク・グライムス、ナヴィド・ネガーバン、キーア・オドネル
監督:クリント・イーストウッド  脚本:ジェイソン・ホール
プロデューサー:クリント・イーストウッド、ロバート・ロレンツ、アンドリュー・ラザー、ブラッドリー・クーパー、ピーター・モーガン
原作:「ネイビー・シールズ 最強の狙撃手」クリス・カイル、スコット・マクイーウェン、ジム・デフェリス著(原書房刊)
2014年 アメリカ映画/2015年 日本公開作品/原題:AMERICAN SNIPER/映倫区分:R15+/配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『アメリカン・スナイパー』大ヒット上映中!
オフィシャルサイト: http://www.americansniper.jp

ゾルゲ市蔵-プロフィール画像

【巻来功士]

1958年長崎県佐世保市生まれ。1981年、「少年キング」誌で『ジローハリケーン』でデビュー。 「週刊少年ジャンプ」に発表の舞台を移し、代表作『ゴッドサイダー』を執筆。その後、青年誌を中心に『ザ・グリーンアイズ』『瑠璃子女王の華麗なる日々』『ゴッドサイダーサーガ神魔三国志』など数々の作品を連載。 クラウドファウンディング「FUNDIY」にて『ゴッドサイダー・ニューワールド(新世界)〜 ベルゼバブの憂鬱 〜』の制作 プロジェクトを成功させて現在鋭意執筆中。


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