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映画好きで知られる漫画家・巻来功士。
巻来功士が最新の映画を観賞し、心臓がピクピクするほど感動及び興奮、または憤慨?した作品”心ぴく映画”を紹介するのが 『功士の心ぴく映画コラム』です。

第五回目にご紹介する映画は『フォックスキャッチャー』。監督は、これまで『カポーティ』(05)『マネーボール』(11)で実在の人物と事件を丹念に描いてきたベネット・ミラー。2014 年カンヌ国際映画祭で見事監督賞を受賞し、先日発表されたアカデミー賞最大の前哨戦と言われる第72回ゴールデン・グローブ賞においては作品・主演男優・助演男優の3部門にノミネート。本作同様に実話を基にした作品がひしめく中、ついに発表された第87回アカデミー賞では主要4部門(監督、主演男優、助演男優、脚本)を含む全5部門にノミネートされました。世界中が注目する第87回アカデミー賞授賞式は日本時間 2 月 23 日(月)米ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催されます。
アカデミー賞も注目の作品を観た巻来巧士の心ぴく度は?

【STORY】
レスリングのオリンピック金メダリストでありながら経済的に苦しい生活を送るマーク。ある日、デュポン財閥御曹司ジョン・デュポンからソウル・オリンピック金メダル獲得を目指したレスリングチーム“フォックスキャッチャー”の結成に誘われる。名声、孤独、隠された欠乏感を埋め合うように惹き付け合うマークとデュポンだったが2人関係は徐々にその風向きを変えていく。さらにマークの兄、金メダリストのデイヴがチームに参加することで三者は誰もが予測しなかった結末へと駆り立てられていく。

心ぴく 219

第5回「心ぴく(心臓ぴくぴく)映画コラム」は『フォックスキャッチャー』。
1996年、アメリカ3大財閥の1つと言われるデュポン家の御曹司が、後援していたレスリングの金メダリストを射殺したという実話の映画化です。

見ている間、終始襲ってくる居心地の悪さを感じていました。それは、普遍的な男の弱さを、鋭い演出で突きつけられてくる居心地の悪さでした。筋肉で武装しているレスリング五輪金メダリストの兄弟。弟マークは、極貧だった幼少期の生活に戻るかもしれないという不安と闘いながら、無心で練習を続けています。平常心では打ち消せない、金メダルを取るという偉業でしか消す事が出来ない、ある意味底なしの弱さを持っているからともいえます。その、必死に打ち込んでいる姿、つまり、もがく苦しむ様がリアルに映し出されます。その弱さに共感するために、居心地が悪くなるのです。

兄、デイブにその弱さは一見、見えません。しかし家族に良い生活を与えてやる為に、大富豪デュポン家専属のレスリングコーチを引き受け、その後すぐにデュポンから不穏な空気を感じ取っても、資金面などの豊富なその場所から動こうとしない、ある意味、犬と化した弱さが見て取れます。そして、デュポン自身も弱さが服を着て歩いているような存在です。ただ、母に認めてもらいたいだけの幼児みたいに、レスリング施設を作り上げ、金メダリスト選手を金で掻き集め、一定の成果を出すものの、振り向いてくれない母を見て、絶望してしまうのです。屋敷の中や周にいる屈強なボディ―ガードや警官達も、この脆弱な大富豪に尻尾を振る犬のように、弱く頼りない。そんな男の弱さのオンパレードの居心地の悪さは、相当なものがありました。

この主要三人の生き方、考え方、そして弱さに共感できない男はいないはずですから、居心地が悪く、終始緊張感に満ちているのです。そこまで男の本質を描いた映画なので、見たくない自分を見せられて拒否反応を持ち、まったく受け入れられない人がいるかもしれません。近年、我が国の映画も言論も、辛い真実と向き合うよりも自分に都合が良い妄想に逃げる方が楽、という事を通り越して正しい、というような文化になっているからです。そのような観客が増えた今、素の自分と向き合うようなこの映画は鬼門かもしれません。だからこそ、是非見てください、人間の多面性を理解し、愚かな大きな声に惑わされない為にも・・

「カポーティ」「マネーボール」という硬質な傑作を連発しているベネット・ミラー監督だけに、人間の光と闇を描いた期待に違わぬ傑作になっていました。音楽を極力排除した静質な画面ゆえに、俳優達の眉の動き1つまでも、ダイレクトにこちらに伝わってくるような、緊張感に満ちた空気が全体を支配しています。

メダリスト兄弟を演じるチャニング・テイタムとマーク・ラファロが見事です。弟役のチャニング・テイタムは、まるで求道者のようにレスリングに打ち込む姿を、ほとんどの場面を無口に、そして不満そうに演じた表情の演技は素晴らしいです。兄役のラファロも、温かく弟を支えようとする愛情にあふれた演技が絶品でした。兄弟の練習風景も、息ずかいとマットの擦れる音、二人の表情に焦点が合わされ、誤魔化す事が出来ない演技合戦を見せられ、幸福な緊張感に包まれます。そして、デュポン役のスティーブ・カレル。まさか、あのコメディー映画の傑作「40歳の童貞男」の主人公が、特殊メイクでまったく別の個性となって演じているとは!鑑賞している間、まったく気付きませんでした。登場した瞬間、孤独に満ちた大富豪の不吉なオーラが画面全体を支配する名演は迫力に満ちたものでした。

男ばかりの中で、もっとも暗いオーラを発散しているのがデュポンの母親を演じているヴァネッサ・レッドグレイヴです。絶えず息子を全否定している老婆の演技は、本当に恐ろしいものがありました。この映画の人間関係は下手なホラー映画より怖い!ラストの、突然の悲劇のシーンに至るまでの静かな緊張感とその後の虚無感。劇的に盛り上げないだけに、現実と地続きの怖さが溢れています。

この数年、邦画は犯罪を基にした実話の映画化が全くありません。当然、こんな硬質で素晴らしい演出の映画はありません。そんな硬質な映画をまったく見た事がなく、過剰な演出(テレビドラマのような)の映画を見慣れている人たちには、かなり違和感がある映画になっているかもしれませんが、これが世界レベルの演出だと受け入れて貰えれば楽しめると思います。そんな、実話映画の傑作です。お薦めです。

『フォックスキヤッチャ―』の心ぴく度90点です。



『フォックスキャッチャー』
監督: ベネット・ミラー 『マネーボール』、『カポーティ』
脚本:E・マックス・フライ、ダン・ファターマン
出演:スティーヴ・カレル『リトル・ミス・サンシャイン』、チャニング・テイタム『マジック・マイク』、マーク・ラファロ『アベンジャーズ』、シエナ・ミラー『ファクトリー・ガール』
2014年/アメリカ/135分/カラー/英語/アメリカン・ビスタ/5.1ch PG-12
提供:KADOKAWA、ロングライド 配給:ロングライド 宣伝:クラシック
© MMXIV FAIR HILL LLC-ALL RIGHTS RESERVED.
HP:www.foxcatcher-movie.jp

2015年2月14日より、新宿ピカデリーほか全国公開中

※巻来巧士『マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画』ゲストトーク開催、渋谷アップリンク http://manga-style.jp/news/detail/2015021901

ゾルゲ市蔵-プロフィール画像

【巻来功士]

1958年長崎県佐世保市生まれ。1981年、「少年キング」誌で『ジローハリケーン』でデビュー。 「週刊少年ジャンプ」に発表の舞台を移し、代表作『ゴッドサイダー』を執筆。その後、青年誌を中心に『ザ・グリーンアイズ』『瑠璃子女王の華麗なる日々』『ゴッドサイダーサーガ神魔三国志』など数々の作品を連載。 クラウドファウンディング「FUNDIY」にて『ゴッドサイダー・ニューワールド(新世界)〜 ベルゼバブの憂鬱 〜』の制作 プロジェクトを成功させて現在鋭意執筆中。


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