• このエントリーをはてなブックマークに追加

「御堂筋ぃ!」「真波くん!」「巻ちゃん」「青八木ー!」「今泉くんー!」  会場に集まった131人の『弱虫ペダル』ファンが、作者の渡辺航先生に生で描いて欲しいキャラクターを次々と叫んでいく。どのファンの声にも応えたくて苦悩する渡辺先生。意を決して「じゃあ御堂筋描きます!」と発表、会場全体から上がる黄色い声。熱気がインターハイ会場のゴール地点レベルだ。

手嶋の名セリフ「ティーブレイク!」で乾杯する会場

手嶋の名セリフ「ティーブレイク!」で乾杯する会場

『弱虫ペダル』の渡辺先生の公式トークイベント「渡辺航のペダルナイト2~ザ・ペダル新年会!」が、1月19日に東京カルチャーカルチャー(東京都江東区)で開催された。渡辺先生のファンサービス精神の高さから“神イベント”と称された「ペダルナイト」が、熱望に応えて約1年ぶりに復活。前売りチケットは即完売、来場者131人(うち女性129人)には台湾からやって来たファンもいたことからも、イベントへの期待値の大きさがうがかえる。

右から渡辺先生、司会のカルチャーカルチャー店長・横山シンスケさん

右から渡辺先生、司会のカルチャーカルチャー店長・横山シンスケさん

ファンの弱ペダ愛もさることながら、参加してみてわかったのは渡辺先生自身が非常に愛にあふれたマンガ家であるということ。自転車への愛、作品への愛、ファンへの愛……これらが先生のトーク、ライブペインティングなどあらゆる企画を通してひしひしと伝わってくる2時間半だった。明かされた作品の裏話の数々とともに、イベントの様子を紹介しよう。アニメでまだ登場していないシーンにも触れるので、コミックスを読んでいない方々はご注意を。

会場に集まった131人の弱ペダファン

会場に集まった131人の弱ペダファン

トーク中はイベント限定メニューも食べられる。右は巻島の異名「ビークスパイダー」にちなんだ「スパイダートースト」

トーク中はイベント限定メニューも食べられる。右は巻島の異名「ビークスパイダー」にちなんだ「スパイダートースト」

■「練習時間がなくなったらヤバイ」 並々ならぬ自転車愛

 イベントが始まると、渡辺先生は自前のロードバイク・コルナゴC60に乗って笑顔で登場。服装も総北高校の黄色いジャージを着ているなど、のっけから弱ペダワールド全開の先生にお客さんから歓声とフラッシュが浴びせられる。

先生、チャリで来たー!!!

先生、チャリで来たー!!!

渡辺先生は週刊連載を抱えた多忙な日々を送りながらも、サイクリングの練習は決して欠かさないほど自転車好きだという。

「編集さんにいつも言っているのが、ぼくは自転車を練習する時間が無くなったらもうやばいんで、そこだけは確保してくれといっているんです。毎週カラー描いてくれとも言われるんですけど、ちょっとセーブして……! って話をしてますね」(渡辺)

 その自転車熱の高さはプライベート写真の公開でますます明らかに。サングラスの先生が日本各地でサイクリングしている写真が20~30枚ほど大画面に映し出されていく。先生の地元・長崎のメガネ橋、御嶽山の麓のゴツゴツした山道、愛媛と広島を結ぶサイクリング専用ロード「しまなみ海道」。夏に長崎へ帰省したときは神戸から5日間かけて680キロ走ったそうだ。とにかく走ることへの情熱がはんぱない。

自転車のプライベート写真を公開する先生。自撮りするときはこの角度が多い

自転車のプライベート写真を公開する先生。自撮りするときはこの角度が多い

あるロードレースの写真。奥に見える山に小さな茶色い線が走っていて、「あれもコースなんです」と先生が説明すると会場がどよめく。レースで走りながらあんな遠くまでコースが続いていることがわかっていたら、普通ならば気が滅入りそうだ。

「走りながらずっと遠くの道を見て、今からあそこへ向かうのかぁって気持ちになるのが好きなんです。あの尾根が終われば下り道になると思っていたら、実はまだ上り道が続いていた、とか。行く前は無理なんじゃないかと思うけど、いざ終わってしまえば『行けば行けるんだな』って達成感に変わる。『オレ生きている』と感じるんです」(渡辺)

 まるで箱根学園のクライマー・真波山岳のような発言。弱虫ペダルのどんな逆境でもキャラクターたちが勝利をあきらめない熱い展開は、渡辺先生の自転車への愛にも直結しているようだ。

渡辺先生。イベント後半は、箱根学園のジャージに衣装をチェンジ

渡辺先生。イベント後半は、箱根学園のジャージに衣装をチェンジ

■「古賀が勝手に拳を突き上げた」 作家としてのキャラクターへの愛

 総北高校で部員のサポート役に徹していた古賀公貴が、実はかなりの実力者だったことが明らかになる合宿編(坂道2年生時)。1年生のころインターハイのレギュラーだったことを古賀が証明するため、ジャージを脱いで、あらかじめ着ていたインターハイ時のジャージをバッと披露するシーンがかっこよすぎると会場は盛り上がる。司会の横山シンスケさん(東京カルチャーカルチャー店長)にとっては「弱ペダ史上一番」の場面とのこと。

古賀のジャージ披露シーン

古賀のジャージ披露シーン

「こんなシーン誰も想定してなかったですよ。ジャージ on ジャージですからね! そしてみんなに見せつけたあとに『これが一番わかりやすいだろうと思ってな……』とか言うんですよ! 新開の『バキューン』は新開のキャラに書かされたって前のイベントで言っていたように、この古賀のセリフも書かされた感じですか?」(横山)

「キャラクターに書かされた感じがありますね。古賀はすごくビュンビュン走ってくれるんですよ。肩で風切ったり、手嶋とのスプリント勝負で勝手に拳突き上げたり」(渡辺)

 合宿編でインターハイ出場をかけた戦いに敗れてしまう古賀。しかし「キャラが立ちすぎてたので、描いててインターハイで走らせたいと思ってしまった」と渡辺先生はいう。作家の意向にゆさぶりをかけてくる古賀もすごいが、それほどキャラクターというものと客観的に向き合っている渡辺先生の作家性にも驚かされる。

葦木場のホクロについても「だんだんハート型になってますよね(苦笑)」と自覚があったことを暴露

葦木場のホクロについても「だんだんハート型になってますよね(苦笑)」と自覚があったことを暴露

  『弱虫ペダル』のキャラは設定も非常に深い。イベントでは作中で言及されていない裏設定が先生の口から次々と飛び出した。

  「箱根学園の荒北靖友が乗っているBianchiの自転車は、高校1年生のとき福富寿一が乗っていたのをもらい受けたものだった」「最初の合宿で手嶋と青八木が着けている“必勝グローブ”は、2人で1組のグローブを買って片一方ずつはめている」などなど。キャラ同士の絆を深めるエピソードが飛び出すたび、参加者たちも大いに盛り上がる。

  作品の難問を解く企画「ペダル検定」の答え合わせで、総北のインターハイ出場メンバー(坂道2年生時)が並んでいるカラー見開きがスクリーンに映し出された。みんな同じ黄色いジャージを着ているように見える。

総北のインターハイ出場メンバーのカラー見開き

総北のインターハイ出場メンバーのカラー見開き

「実は鏑木くんだけジャージの色を明るく塗っているんですよ。(1年生だから)新しいジャージなんで、同じ黄色でもわざわざ塗り替えてあります」と渡辺先生は告白。細かすぎる……! このように読者が気づかないような細部でもこだわってしまう情熱が、対話できてしまえるほどキャラ1人1人を活き活きさせるのかもしれない。読者が弱ペダキャラに熱狂してしまうのも大きくうなずける。

 弱ペダのスピンオフシリーズ『SPARE BIKE』に次は誰を出すかという話になった。「巻数が行けば荒北をやる可能性もあると思います。田所とか、金城さんとか……」と言う先生に、「必ず金城は『金城さん』って敬語になりますよね(笑)」と横山さんがツッコむ。「年上感半端ないんです。敬語になります」と照れ笑いする先生。自ら生み出したキャラに謙遜してしまう作家性、すごすぎる。

■全員への握手からキモッキモッポーズまで 旺盛すぎるファン愛

 極めつけはファンサービスだ。  渡辺先生がその場でリクエストを受けてライブペインティングした色紙の数は8枚。手嶋を描いたら空けておいたスペースに青八木を添え、巻島を描いたら東堂を加えてと、リクエストキャラの隣に関係の深いキャラを、何の前フリもなしに描き足していく。黒田&泉田、古賀&杉本など、ペアが作られるたびに歓声と拍手が起こる会場――先生、熟知しすぎです。

御堂筋をライブペインティングする先生。どのキャラも50秒くらいと、描くのがめちゃくちゃ速い

御堂筋をライブペインティングする先生。どのキャラも50秒くらいと、描くのがめちゃくちゃ速い

黒田の隣に泉田を描き始めた先生。泉田は目から、手嶋は前髪からと、描き始めるところがキャラによって違うのも見どころだった

黒田の隣に泉田を描き始めた先生。泉田は目から、手嶋は前髪からと、描き始めるところがキャラによって違うのも見どころだった

一番歓声が起こった古賀&杉元、補給チーム

一番歓声が起こった古賀&杉元、補給チーム 

帰りにも参加者131人へ、自筆サイン入りポストカードを1枚1枚手渡し。笑顔で握手して一二言交わす。19歳女性も「イベントに参加して先生の人柄が好きになりました」、30代女性も「すごく気さくで笑顔も素敵でさらにファンになりました」と語るなど、イベント初参加だったお客さんは先生にますます惹かれていた。

参加者一人一人に握手する先生

参加者一人一人に握手する先生

さらには「バキューン」や「キモッキモッ」ポーズを披露するファンサービスも!

さらには「バキューン」や「キモッキモッ」ポーズを披露するファンサービスも!

 最後はカメラを向けるファンたちに対し、人差し指を突き出して新開の「バキューン」、さらには両腕をL字に構えて御堂筋の「キモッキモッ」と、作中の名ポーズを連発。こちらの期待をいい意味で裏切り続けた挙句、「今日はありがとうございました!」と丁寧におじぎしてくれる先生に、参加者たちも惜しみない拍手を捧げた。退場の際もみんなに笑ってハイタッチをしていく。畏敬の念や親しみを感じられずにはいられない。

 自転車への愛、作品への愛、ファンへの愛、いずれも並々ならぬものがあった渡辺先生。『弱虫ペダル』の熱量の高さにうなずき、そして先生ごと作品を一層好きになってしまうファンイベントだった。早くも第3回目の開催が待ち遠しい……!

画像16

[執筆=黒木貴啓(マンガナイト)]


関連記事:

関連ニュース

関連まんが