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-自分の中には何もない-

浦沢:この間NHKの手塚治虫特番に出演して、日記に書かれた最後のアイデア、『トイレのピエタ』*のことがあって、その時にふと思ったのは、本当にあの時手塚先生は死にゆく者の心情を取材出来た、「俺今分かったわ、これ描けるわ」と本当に思ったんじゃないかなって。

手塚:『トイレのピエタ』のプロットは汚い文字で書かれているんですが、思いついた時の力の強さといったらなかった。今すぐ描きたい!という、わくわく感を感じました。

浦沢:新しい作品を思いついた時って本当に最高の瞬間なんですよ。今までも『YAWARA!』とか『20世紀少年』とか『MONSTER』とかこういう話を思いついた時に、「あー、これで描ける!」というあの感覚には他にないくらい感激があるんですよね。だからそれを壊すことなく、大事に完成させなくちゃという作業は大変なんですが、挑み甲斐のあるチャレンジなんですよね。

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浦沢:この間、手塚先生をまとめた本で「僕の中にはいつも何もないんだ」というセリフがあったんですよ。売るほどネタはあるという言葉に相反する言葉も言っている。それを見た時「あーそうなんだ、僕と一緒だ」と思いました。僕のなかには何もなくて、たまに何か思いつくんですが、それ以外の時間はほとんどの場合、何も思いつけてないんですよ。皆さんにはたまに思いつけたことを届けているんですよ。

作品にしている100倍のものはボツにしているんですよ。使えないものを思いつくとか、考えようとしても思いつかないとか、1日思いつかないとかそんなのばっかりです。でも思いつくのは一瞬なんですよ。手塚さんも「自分の中には何もないんだ」と言っているセリフに、わー手塚さんも一緒だー。と思いました。

手塚:同じ作家だから、共感することもあるんでしょうね。バーゲンセールするほどあるなんて言ってても、TV上でのポーズですよ(笑)。

浦沢:具体的になっていないネタは、たくさんあるんですよ。”大宇宙を冒険する男の話”とか、ざっくりしすぎなやつは山程ある(笑)。自分のなかでは凄く面白いんですけれどね。

手塚:時期的に今じゃないだけで、将来的に描けることもあるんですよね。うちの父の引き出しにもいろいろなアイディアがあって、あとで使おうと思っていたものはあったと思いますね。

浦沢:手塚治虫という人は、今の時代にいたらCGをどう使うか、タブレットをどう使うかとかも気になります。ジミ・ヘンドリックスが登場するまで、エレキギターはあんな使われ方しなかったわけですからね。道具をとんでもない使い方をするような人が、ある意味文明を改革していくわけで、想像もつかない使い方をしたんじゃないかなと思うんですよね。

手塚:どうでしょうね。機械オンチだと思うんですけどね(笑)。理系でロボットの漫画を描いているくせに、自動車の運転もしなくて自転車しか乗ってなかったし。

浦沢:僕は相変わらずスマホも持たないし、最近ようやくiPadを買いましたが、全くSNSもやってないし。昨日ついにうちの娘がやったほうがいいから、と言い出して。

手塚:ということは、ツイッターとかを始められたんですね。

浦沢:はい。ツイッター始めたら、フォロワーは最初担当編集者二人とかで、朝起きたら九人になったよーと娘からメールが来ていて、まだ一桁なんですよ(笑)。


-ここで浦沢先生にスケッチブックを開いていただき、ご自身のこれまでの人生の中で分岐点となった場面を一枚の絵にしていただきました。果たして浦沢先生の描かれた場面とは?-

浦沢:自分とっての分岐点かあ・・・。縁側で『火の鳥』を読んでいる時を描こうかな。

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浦沢:中学の頃のCOMの増刊で出ていた、COMサイズの単行本ですね。

手塚:分で購入されたんですか?

浦沢:アニキと協力して買った記憶があるんですよ。アニキに『火の鳥』はちゃんと読んでおいた方がいいぞと言われたんですよね。

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-浦沢さんの描かれた一枚。頭の中のイメージをそのまま描くという言葉通りに、下書き無しの作画です。-


対談の最後に浦沢さんがスケッチブックに描いたのは、中一の時に、『火の鳥』を自宅の縁側で読んで衝撃を受けたという場面。その日に成人式を迎えたという、浦沢さんにとっての分岐点です。

現在、モーニング誌上にて『BILLY BAT』を連載中。また『MASTERキートン』20年ぶりの完全新作『MASTERキートン Reマスター』(ストーリー・長崎尚志)も絶賛発売中の浦沢さん。これから浦沢作品がどういった前人未到の地へ向かうのか、作品を行方を楽しみに待ちたいと思います。
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*『トイレのピエタ』 手塚治虫が病床の日記に構想を書いていた幻の作品。

【浦沢直樹プロフィール】

漫画家

1960年東京生まれ。1983年デビュー。代表作に「YAWARA!」、「MONSTER」、「20世紀少年」、「PLUTO」(原作・手塚治虫 監修・手塚眞 長崎尚志プロデュース)等。数々の漫画賞を受賞、海外での評価も高い。現在、『モーニング』にて「BILLY BAT」(ストーリー共同制作・長崎尚志)を連載中。

・浦沢直樹_スタジオ・ナッツ公式情報Twitter @urasawa_naoki

【手塚るみ子プロフィール】

プランニングプロデューサー。

東京都出身。広告代理店を経て、手塚作品をもとに独自の企画を創作するプランナーとして活動。音楽レーベルMusicRobita主宰。

手塚プロダクション取締役。父は漫画家の手塚治虫。著作に「オサムシに伝えて」、「ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘」等。

・RumikoTezuka Twitter @musicrobita

[執筆・撮影 木瀬谷カチエ]

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