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 「誰がマンガを育てるか」について“批評”と“キュレーション”の切り口から考察するトークイベント「漫画家の登竜門を再考する(2)―誰がマンガを育てるのか?マンガ批評とキュレーション―」が、2014年12月5日に中野区産業振興拠点「ICTCO」(東京都中野区)で開催された。

 登壇者はマンガの文化やキュレーションに精通する3人。マンガキュレーションサイト「マンガHONZ」のライターかつトキワ荘プロジェクトのディレクターである菊池健さん、キュレーション業務も手がけるマンガ関連の企画会社「レインボーバード」代表の山内康裕さん、クールジャパンなどマンガ文化の研究で明治大学の特任講師を務めるレナト・リベラ・ルスカさんだ。

右から菊池さん、山内さん、レナトさん

右から菊池さん、山内さん、レナトさん

 スマートフォンの普及や電子書籍の増加、マンガアプリの人気など、マンガの売上を左右するものはここ数年でめまぐるしく変化している。ビジネス面での成功にしても、マンガ家が優れた作品を生み出していく上でも、「マンガを育てる」のは誰になってくるのだろうか。これについて批評とキュレーションという観点から3人が探っていくトークイベントとなった。

イベントはNPO法人中野コンテンツネットワークが主催するマンガアワードプロジェクト「マンガ・イノベーション・アワード・イン・ナカノ」の一環。昨年7月に開催された「漫画家の登竜門を再考する—新人マンガ賞の意義と新たなプラットフォームの可能性—」に続く、マンガの可能性を検証する全3回のトークの第2回目となる。

■マンガのタイトル数が膨大な今は「キュレーション」

 山内さんによると、メディアの特性やテーマに基づいた文脈にのせて作品を選ぶ行為がキュレーションで、そこからさらに作品を時代性と結びつけて論じていくのが批評だという。自身で紹介文を書く『このマンガがすごい!』ではキュレーションを、論評を書いたカルチャーサイト『STUDIO VOICE』では批評を重視し、それぞれ書き方の意識は明確に変えていた。

「マンガって大衆文化で、ヒットを出しているときはある程度の時事性を反映しているはず。批評は感想文じゃダメで、作品が時代性といかに結びついているかを書かないといけないと思うんです。一方で『このマンガ~』のような選書(キュレーション)では、単に自分がそのときおもしろいと思うものを紹介しようとしています」(山内)

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 そのため批評は書くのに時間がかかり、作品をいいと思っている内に取り上げにくい問題があるとのこと。今現在はマンガの新刊発行部数はバブル期より約1.5倍も増えていてるため、テーマに応じて作品を選ぶキュレーションが世間的に求められており、実際にキュレーションサイトが増加しているのもそれが理由だと分析した。

 菊池さんは『手塚治虫はどこに行く』(著者:夏目房之介)や『テヅカ・イズ・デッド』(著者:伊藤剛)といったマンガ批評家の書籍を引き合いに、批評とはマンガを売るためではなく「そのものがコンテンツとなるおもしろいもの」と位置づけた。対して「マンガHONZ」が行っているキュレーションは「埋もれたマンガを紹介して売る」こと。それも現代においてマンガのタイトル数が多いからだと説明する。

 現在1年間に発売される新刊発行部数は、単行本が約1万作品、復刻本あわせて約1万2000作品。電子書籍も既刊タイトルふくめ年間約2万作品が電子化されている。「おそらくマンガの99パーセントはみなさんの目には触れない世界になってきて」おり、中に埋もれたおもしろい作品を書評でしっかりと紹介して売っていくことが大事になるそうだ。

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「マンガHONZが書評を書く上で1番狙っているのはPV数ですが、2番目はその書評を通してAmazonなどで何冊売れたかというコンバージョン。レビュアーみんなでそれを月1回見て、一番書評で売ったやつが偉い、といった感じで競いあっています(笑)」(菊池)

 そのためマンガHONZでは、例えば4月頭には「新社会人に向けて紹介するマンガ」という切り口のように、特定の読者の興味を惹くような文脈をつけて記事を紹介していく。「ニコニコ角川祭り」というKADOKAWAグループの電子書籍セールのときは、「セール中に買っておきたいお薦めマンガ60選」という切り口で一挙60冊紹介した結果、その記事からKindleで4000冊売り上げたそうだ。

 両者とも批評・キュレーションの位置づけに違いはあれども、毎年膨大なタイトル数が発売されるマンガ市場においてはキュレーションが求められる傾向にあるという見方だった。

 一方でレナトさんは、マンガが世界で売れるようになるには批評が必要だと主張。海外から見て日本のマンガはまだサブカルチャーの域にあり、それは国内にマンガ批評があまり存在しないからではないかと指摘する。音楽や小説、映画などは批評家たちが討論を繰り返し、評価に値するアーティストや作品を見出していった結果、メインカルチャーへと正当化されていった。日本がマンガを国の代表的コンテンツとして売り出そうとしていることを踏まえ、マンガにも同じような批評的な議論がもっとあった方がいいと説いた。

■読者の総意が作品を育てる? 「comico」のコメント機能

 マンガは誰が育てるかという話では、マンガアプリ「comico」のコメント機能について盛り上がった。

 comicoでは2014年、学園コメディマンガ『ReLIFE』(作:夜宵草)が累計300万ダウンロードを記録するなど大ヒットに。8月に同アプリ初となる単行本化を果たした後、1・2巻の累計発行部数も11月時点で40万部を突破した。

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 菊池さんは『ReLIFE』が売れた理由は、comicoのコメント機能が“新しいクチコミ”効果をもたらしているからではないかと推測する。

 comicoは1話ごとに読者がコメントできるシステムだ。コメント1つ1つにも『いいね!』がつけられ、その数が多いほどコメントがトップへ上がってくる。実際は1話につき3000、4000コメントがつき、トップコメントの『いいね!』数も2000、3000を記録しているそうだ。

「何が起きているかというと、昔ぼくらがジャンプを発売日前とかに買っていち早く読んだら、学校の教室で『お前読んだか?』みたいに友達に話している状況がcomicoでも起きているんです。コメントを書きこむ方もcomicoが新しい仕組みだって自覚があるし、読んでいる方も『いいね!』を押すとコメントが上に来る。そういう盛り上げ力みたいのがドライブして、『ReLIFE』が売れたんじゃないかな」(菊池)

「そういう意味だと、comicoでは読者がキュレーターになっているんですよ」と山内さん。マンガ家を題材にした作品『バクマン』(原作:大場つぐみ/作画:小畑健)では、インターネットの読者がマンガ家にアドバイスを送ってみんなで作品を作りあげていくエピソードがあった。そのように、comicoではコメント機能というユーザーの総意が作品を育てる力があるのではないかという。

「一方で別のマンガアプリ『マンガボックス』は、旧来のように編集者がキュレーターの役割をやっていて全然文脈が違いますよね。誰が作品を育てるのかという意味で、読者が育てるのか編集者が育てるのか、どっちに動くのか気になるところですよね」(山内)

取材・文=黒木貴啓(マンガナイト)


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