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『ヘルタースケルター』『リバーズエッジ』など代表作にとがったイメージがつきまとう岡崎作品。だが、3人が語る“岡崎京子”は人情味にあふれた姿だった。


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「『ヘルタースケルター』みたいなエキセントリックな感じじゃなくて、本人はすごくバランスのとれた、常識的でまともな人」
 岡崎京子という人間について、デビュー当時から毎日電話する仲だった桜沢エリカさんは語る。

 2015年1月から世田谷文学館で「岡崎京子展」が開かれるのに先駆け、岡崎京子さんについて3人のマンガ家が語らうトークイベントが11月1日に同館で開かれた。

登壇者は、同年代の親友かつ仕事仲間として30年来の付き合いがある桜沢エリカさん、岡崎さんのアシスタントを経て公私ともに交流が深い安野モヨコさん、そして小学生のころから岡崎作品を追い続けてきたしまおまほさんだ。

左から司会・佐渡島庸平さん、安野モヨコさん、桜沢エリカさん、しまおまほさん。

左から司会・佐渡島庸平さん、安野モヨコさん、桜沢エリカさん、しまおまほさん。


1980~90年代を象徴するマンガ家の岡崎さんは、1996年の交通事故で重い後遺障害を負い、今日に至るまで休業状態が続いている。彼女の親友・愛弟子(かつこちらも親友)・大ファンという3者のトークは、岡崎京子の輪郭をより鮮明にしてくれる貴重な時間となった。司会は株式会社コルク代表取締役・佐渡島庸平さん。

冷静な視点とあたたかな目線、味のあるダイナミック性

代表作ともいえる 『ヘルタースケルター』(祥伝社)、『pink』(新装版、マガジンハウス)

代表作ともいえる 『ヘルタースケルター』(祥伝社)、『pink』(新装版、マガジンハウス)


 『ヘルタースケルター』や『pink』など、岡崎マンガの代表作と呼ばれるものにはエキセントリックな表現が目立つ。描いている本人も精神状態がギリギリであるかのような印象を受けるが、桜沢さんが挙げた「岡崎京子らしい作品」は異なるものだった。

桜沢「『ハワイ・アラスカ』(単行本『テイクイットイージー』収録)っていう8ページの短編が、ある意味京子ちゃんらしいと思います。高校生カップルがもし新婚旅行するならどこへ行きたいか会話するんですが、男の子はアラスカ、女の子はハワイと食い違って、喧嘩になる話。すごくかわいく素敵な内容で、私はこれみたいにほっこりしたものによさを感じるかなぁ」

佐渡島「『ヘルタースケルター』のようなイメージと本人は違うんでしょうか」

桜沢「『ヘルスケ』を読むと作者もイッちゃってる感じがするけど、あれはイッちゃってないからちゃんと描けるのだと思う」

安野「うん、激昂しているのは見たことない。常にニュートラルでいつも変わりないかな。切り替えも早いです。仕事中に電話が来ても『どうもどうも!』と元気よく出て、終わるとすぐ平常運転に戻るみたいな」

「ハワイ・アラスカ」収録の『テイクイットイージー』(幻冬舎)と、安野さんが岡崎さんらしいと挙げた『カトゥーンズ』(新装版、 KADOKAWA)

「ハワイ・アラスカ」収録の『テイクイットイージー』(幻冬舎)と、安野さんが岡崎さんらしいと挙げた『カトゥーンズ』(新装版、 KADOKAWA)


同じような意味でまさに岡崎さんらしいと、安野さんが挙げたのは『カトゥーンズ』。6ページのショートストーリー24話を収録した短編集で、前回の最後のコマを次の回の1コマ目にしながら、主人公やテーマはまったく異なる話が展開されるという作品だ。

安野「基本的に京子さんの目線が冷静、でもある種の笑いがある」

しまお「私も『カトゥーンズ』がすごく好きで。登場人物たちは悲惨な境遇にあるけれど、目線は見守っているようであたたかいんですよね。話の流れと関係ないところに、噴水など日常の風景が入っているのもすごくほっとします」

キャラをフラットな視点で見つめる作家性と同時に、あたたかい人間性もうかがえる岡崎さん。いつも口紅が口からはみ出しているような気の抜けた一面もあると、3人で笑い合う。

安野「京子さん、スクリーントーンの扱いが大胆なんですよね。そこらにドッと置いちゃうから裏に消しゴムのカスがいっぱい付いていて、掲載時でも入ったままのやつがけっこうある」

しまお「私も読んでて、これ消しゴムのカスだなってわかる作品ありました」

「それも含めてアートだからね」と桜沢さんが不敵に微笑むと、客席からドッと笑いが起こる。

安野「トーンがはみ出すのも全然普通でしたね。逆に修正しないほうがかっこいいのかなって思っていました。青鉛筆でここカケみたいに指定が入っているんですけど、急いでいるときその通りに抜くと間に合わないからざっくり抜いても、京子さん気がつかなかったりするんですよ。クオリティ優先とそうじゃないタイプの先生がいるんですけど、そこら辺はおおらかな先生です。口紅と一緒でダイナミック」

「ちょっとはみ出しているのが味になっていて、それが素敵だからねぇ」と桜沢さんはしみじみしながら宙を見つめた。

卓越した観察眼と独特のセンス

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同業者から見える岡崎作品の魅力とはどのようなものか。しまおさんがその1つに「おっぱいの描き方」があると指摘すると、桜沢さんもうなずいて「上手いよね」と嘆ずる。

しまお「これぞ岡崎さんの描くおっぱいだなっていう絵。日記帳とかにすごくいっぱい岡崎さん風のおっぱいを真似して描きました。ほかにも腰のくびれとかハイヒールの足首とかすごく憧れるものがありましたね」

桜沢「京子ちゃんって身長が150センチちょいなんですけど、絵を見ていると小さい女性が描いている気がしない。すごく背の高い人が描いているような絵」

安野「京子さんに初めて会ったとき、私は16歳、向こうは23歳。ちびっこって呼ばれたのですが、京子さんは私よりちっちゃかったので『えーっ』て思いました」

「ハワイ・アラスカ」収録の『テイクイットイージー』(幻冬舎)と、安野さんが岡崎さんらしいと挙げた『カトゥーンズ』(新装版、 KADOKAWA)

「ハワイ・アラスカ」収録の『テイクイットイージー』(幻冬舎)と、安野さんが岡崎さんらしいと挙げた『カトゥーンズ』(新装版、 KADOKAWA)


絵のうまさについては安野さんも、葛飾北斎が波の描き方を生み出したように、海の波打ち際、水への泡の入り方などいろんな画法を発明したかもしれないとうなっていた。

岡崎作品といえばセリフの印象の強さも外せない。それは桜沢さんと安野さんの仕事中に何度も顔を出してくるほどだ。

安野「京子さんの言葉はダイレクトに入ってくる強いフレーズが多い。私も仕事中にどこかで思い出した京子さんのフレーズを、自分で思いついたように描いているんじゃないか怖くて、一時期はあえて京子さんの作品を読まないようにしていました」

桜沢「それぐらい強い言葉はいっぱいある。私もふとした瞬間に京子ちゃんのセリフを思い出すことがあるから。絵もそうだけど」

安野「1回思い出すと、京子さんの言葉がどう考えてもベストなんですよね」

=>音楽、ファッション、会話……日常を作品に落としこむ力

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