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立花奈央子展「女装の軌跡と幸福論」「女装子(ジョソコ)」という言葉をご存じでしょうか? 文字通り女性の装いをたしなむ男性の一般名称です。 
では「男の娘(オトコノコ)」は? 「女装家」は? 「ニューハーフ」は?それぞれ女装にまつわる専門用語として別の意味を持っているのですが馴染みの無い人間からすると判別がしづらいように感じます。裏を返せばそれくらいに女装文化は広がりを見せ、また奥深く掘り下げられていると言えるかもしれません。

そんな女装をテーマにした写真展が来年2015年1月26日 〜 2月7日に銀座・ヴァニラ画廊にて開催される事になりました。写真家であり女装コーディネーターとしても活躍中の立花奈央子さん。
「フォトスタジオ大羊堂」を経営し、テレビ・雑誌等でも女装のスペシャリストとして活躍。女装撮影や女装講座講師を行う中で、これまで手がけた男性は ジャニーズ所属のトップアイドルから70歳のベテランまで、のべ1000人を超えるという女装のプロフェッショナルです。

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男の娘モデルのあおにゃんさん

今回の写真展は「女装の軌跡と幸福論」と題され、述べ6年間に渡って撮影された作品が展示予定。筆者がこの展示会に興味を持ったのは先日MangaStyleにて公開になりました「『手塚治虫の美女画展』×『MangaStyle』特別対談 vol.3 “江口寿史×手塚るみ子”」の記事で漫画家・江口寿史さんの会話の中に

「僕は女の人に生まれたかったんですよ。女の人だったら、こうなりたいなと思って描いてますね。そこは他の人と違うと思う。ひばりくんとかまさにそうですよね。(中略)最近の若い男の子が女装する“男の娘”の本も戴いて読んだことがあるんですけど、最強の存在に近づこうとしている努力たるや尊敬に値しますよね。綺麗なものに憧れる純粋さには”祈り”に近いものを感じますよ。その一心がすごく良く分かるんですよね。勝てない勝負してるんですから。」

という発言を耳にしていたからというのも一つの要因でした。
これほどに人を突き動かす女装文化とは一体何なのか?業界素人の筆者が女装写真の第一人者・立花奈央子さんに迫りました。

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立花奈央子さんの撮影現場の風景。


-立花さんの写真遍歴をお聞かせいただけますでしょうか?

立花:私は中学生くらいからコスプレをしていたので撮影される側として写真は幼い頃から身近にありました。元々絵を描くのが好きだったのですが、学校を卒業した後就職した事もあってそれ以降絵を描かなくなってしまいました。ある時、写真で自分の好きに撮影して、メイクして、衣装を作って、画像編集をしてと色々やっていると絵を描くのと変わらないなと気がついて自分でも写真を撮影するようになりました。

始めた頃は蜷川実花さんのような作風で撮影していて、最初に撮ったポートレートを魚住誠一さんが講評されていたウェブサイトに応募したらそれが運よくカメラ雑誌にも掲載されて、最初の一枚で掲載された事もあって「私いけるのかも!」とうまく勘違いしたんですね 笑。ポートレートといっても自分がなじんでいたコスプレの延長線上にあるような作風で普段着の中でも派手な衣装を着てもらって撮影するようなスタイルでした。その作品群で一度個展を開催した後も作品作りを続け、その中でやはり自分は興味の赴くままにモノをつくることがしたいと気づきました。

起業する際に何ができるかと模索している時に、女装写真を撮って欲しいという方が沢山いることを知りました。でも、以前は本格的な撮影ができるところはほとんど無かった上に、実は男社会の女装業界では女性の視点が欠けていて、美しい女装写真はとてもハードルが高かったんです。それなら自分ができる事がたくさんあるな、とスタジオを新宿に作ったのが今の女装写真を撮影するに至ったきっかけです。6年前の2008年頃にSOHOスタイルから始めたのですが、色々な御縁からスタッフにも恵まれ、現在の形になりました。

-女装に興味を持たれたのはどういういきさつなのでしょうか?

立花: 子供の頃から海外のファッションショーの派手な装いが好きで、それが転じてドラァグクイーンの派手な女装へ強い憧れがありました。私の身近にもドラァグクイーンの方がいて人間的にも出来た人で素敵だったんです。当時は世間的に女装がアブノーマルといったイメージがあったんですが、私には「もっとみんな普通に女装を楽しめればいいのに」という思いがあったので、女性の視点から彼女達をサポートし、綺麗な女装を増やす事で、世の中が少し変わるのではないかと思っていました。

最初は外見的に”男性”という素材をいかに”女性”として見せるかという事に注力していたんですが、男性の要素を排除して女性そのものに寄せていく事は女装の本質ではないなと思い、写真を撮り進めていく中で「女性らしさというのはどこから来るんだろう?」「美しさというのはどういう時に現れるんだろう?」という事を考え始めました。そうすると別に男性ということは綺麗さや可愛さには関係が無くて、その人のしぐさや、振る舞い、表情なんかに現れるのではないかという考え方に変わっていきました。

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-立花さんのHPには女装している方の日常生活を撮影されたドキュメンタリーの写真がありますが、どういったテーマなのでしょうか?

立花:  元々、若くて綺麗なものだけが女装としてもてはやされることに反対なんです。年齢を気にしながら女装をする人は「いい年をして恥ずかしい」なんて言うけれど、女性だって年齢を重ねて美しい方も珍しくないですし、個性的な顔立ちでも愛嬌があってみんなに好かれる人もいる。それと同じで、女装は若くて可愛くなければ価値が無い、という考え方には女として反論したかった 笑。それに、ほんの少し前まで、女装しているだけで「男が好きなんでしょう?」とか「女になりたいんでしょう?」といった決めつけじみた偏見を向けられがちでした。間違った固定観念が世間的に浸透しているように感じて、そうではなくて色々な方がいるんだという思いであのドキュメンタリー撮影を行いました。 私の立ち位置だからこそ出会うことができ、心を開いてくれる人たちがいます。それを活かして、少しでも世の中の視野を拓いていくのが私のライフワークですね。

-これまで1000人近い女装写真を撮影されて来られたという事ですが、印象に残っている撮影はありますか?

立花:写真を撮られた事で人生が変わったという人がいらしゃいました。私のところに来るまで、10年以上部屋の中で一人きりで女装をしていたのですが、私がメイクをして撮影をしたら「凄く綺麗になった」と喜んでくれて、そこから女装で外出ができるようになったんです。それまでは女装をしている自分に対して罪悪感を感じているところもあったけど、自信をつけたことで自分で女装を肯定出来るようになったんです。その人はとても均整のとれた筋肉を持つ爽やかなスポーツマン、でも同時に女の子っぽい可愛いものも生まれつき好き。普通の人にはちょっと意外かもしれませんが、本人の中では矛盾していなくて、アウトドアスポーツを楽しみながら女装も楽しむといったライフスタイルに変化しただけ。そういう柔軟なライフスタイルが許容される世の中にしていけたらいいですよね。

-2013年に出版された立花さんの写真集「ゆりだんし」は国内だけではなく、台湾でのイベントも開催されたとのことですが、海外での女装に対する反応は如何でしょうか?

立花: モデルの子達と現地に行ったところ、台湾では非常に受けが良くて、沢山の方がイベントを見に来てくれました。台湾は保守的な考え方が根強く、女装に関する環境や価値観は20年くらい前の日本に近いですが、それでもアジアの中では日本の次くらいに女装文化が進んでいると思います。興味があってやりたい人は沢山いるけれど情報が無いらしく、トークショーイベントの時にも色々な方が質問してくれました。

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『ゆりだんし』 撮影:立花奈央子(マイウェイ出版)

-6年前にスタジオを始められたという事ですが、日本での”女装”シーンは変化ありましたでしょうか?

立花:  めまぐるしく変わっています。特に今年は動きが激しかったですね。テレビの取材も増えてきたんですが、従前の「この人女みたいだけど実は男なんです!」という単純なものから、「男らしさとは何か?」のように、より掘り下げる番組が増えて来ました。一般的なコンテンツ制作がアンダーグラウンドやサブカルチャーを取り扱う事が増えるにつれ、女装に対する意識も底上げされて来たように感じます。年々女装デビューへのハードルが下がり、気軽に楽しむ人が増えていますが、最近は女性の姿が目立つようになりました。彼氏や友達に女装をさせて、女友達気分や百合気分を楽しむんですね。すごく面白い変化だと思います。

-今月山梨県富士吉田市の県立富士北稜高校の授業で男女の制服を入れ替えて着てみる「セクスチェンジ・デー」[1]※といった取り組みが行われましたが、そういった事案についてはどうお考えでしょうか?

立花: 男子はズボンを穿かなくてはいけない、女子はスカートを穿かなくてはいけない、という前提を無くした時に自分がどう感じるのかを問い直す取り組みです。自分が普段なんとなく当たり前だとおもっている既成概念を一度壊すという事ですね。あの試みを知った時は凄いと思って感動すら覚えました。

-来年の展示「女装の軌跡と幸福論」につきまして、テーマと展示についてお伺い出来ますでしょうか?

立花: この6年間というのは自分が女装の業界の入り口から、一番ドロドロした部分まで歩んで来た道のりなんです。最初の入り口は女装の事を何も知らない人たちと同じ立ち位置だったんです。作品撮影は若くて綺麗な人を撮っていたし、”男性”を”女性”に見せようとしていた。
そんな私が日々の出会いと撮影を重ねていく中で自分が女装についてどのように考えを深めていったのか、そして最終的にどこに到達したのかというのを追体験出来るように時系列で見せていこうかなと思っています。

-今回の展示作品の中にもありますが、今メディアで話題のレディビアードさんとの出会いはどういったものだったのでしょうか?

立花: レディビアードちゃんは元々香港で6年間女装スタイルでパフォーマンスをされていて、日本で活動したいという事で友人に紹介してもらう機会があり来日直後に会いました。出会ってすぐに面白い!と刺激を受けて、今は私が全面的にプロデュースさせてもらっています。彼は私が思う”カワイイというのは姿形ではなく、心の在り方”という思いをそのまま体現したような人です。彼は立派な髭をたくわえたマッチョで男性以外の何物でもないんだけど、やたらとカワイイ。その姿を見た人は一瞬引いてしまうけど、いつの間にか受け入れてしまう…そこでカワイイの固定観念が破壊されていくんです。彼がもっと多くの方に認知されていく中で、「カワイイって一体何なんだろう?」とみんなそれぞれに答えを見つけてくれたら嬉しいですね。

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『Ladybeard写真集 Sing,Dance,DESTROY!!』 撮影:立花奈央子(株式会社オパルス)

-これから自分も女装をしてみたい、という方へアドバイス等ございましたらお願いいたします。

立花: 女装はやってはいけない事でも、変態趣味とも限りません。他人に迷惑をかけない限り、心の赴くままに楽しんで良いと思います。試しにやってみるだけでも視野が広がるのが面白いですよ。ヒールの靴は大変なんだ、と体験すると、デートの時に「足痛くない?」と言えて、モテるようになったりとか 笑。
一般的に”こうしないといけない”といった既成概念に対して、何も考えずに縛られているのはもったいないと思うんです。男がスカートを履いてはいけないなんて、まさにそれ。女装にまつわる様々な事を通して私が伝えたいのは、皆さんに「本当は自分が何がしたいのか?という問いに気づき、自分の価値観で考え、思うままに生きてほしい」ということです。
ともあれ、もし女装したいけど自信が無いとか人に言えないとかでしたら私に会いに来て下さい。(笑)

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昨今漫画作品の中でも「女装子(ジョソコ)」や「男の娘(オトコノコ)」を題材にした作品も増えて来ています。現実的な認知度の高まりと共に創作活動にも影響を及ばしている女装文化。その奥深い世界を是非立花さんの写真展で体験して下さい。
写真展「女装の軌跡と幸福論」は2015年1月26日から 2月7日まで、銀座・ヴァニラ画廊にて開催です。


立花奈央子(たちばな なおこ)
女装コーディネーター、フォトグラファー、メイクリスト。 株式会社オパルス代表取締役。
「フォトスタジオ大羊堂」を経営し、テレビ・雑誌等でも女装のスペシャリストとして活躍。 女装撮影や女装講座講師を行う中で、これまで手がけた男性は ジャニーズ所属のトップアイドルから70歳のベテランまで、のべ1000人を超える。
より多くの人が性別に関する固定観念から脱し それぞれの自由と幸せを見出す契機とするために、 女装者の写真を撮り続けている。

立花奈央子展「女装の軌跡と幸福論」
開期:2015年 1月26日[月]~2月07日[土]
会場:ヴァニラ画廊 新画廊 展示室 A
住所:東京都 中央区銀座八丁目10番7号 東成ビル地下2F
http://www.vanilla-gallery.com/archives/2015/20150126a.html

★刊行物

2010年9月 「コスプレイヤーのための2.5次元フォトレタッチガイド」(株)アスペクト

2011年12月 男の娘写真集「TRAP」(株)ミリオン出版

2013年7月 女装男子写真集「ゆりだんし」(株)マイウェイ出版

2014年5月 ヒゲ女装アイドルLadyBeard写真集「Sing,Dance,DESTROY!!」

★展示

2009年3月 東京・新宿にて個展「彩色絢美」

2010,11,12,13,14 東京・渋谷にて合同展「ポートレート専科2010」

2011年12月17日~2012年1月15日 東京・原宿にて個展「七彩鑽石」

2013年9月24日~10月6日 台湾・台北 littleMOCA にて個展「巡回展in台北 百合男子」

作品サイト → http://crossdressjapan.com

Twitter:@taiyodo_boss 

フォトスタジオ大羊堂:http://taiyodo.in

 [執筆・撮影 木瀬谷カチエ]


[1] 2014年11月11日に山梨県富士吉田市の県立富士北稜高校で開催された有志生徒が男女で制服を交換して過ごす催し。「セクスチェンジ・デー」は、「sex(性)」と「exchange(交換)」を掛け合わせた造語。全校の約4割に当たる299人(男子117人、女子182人)が参加した。


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