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対談表紙 喜国先生-国樹先生

11月3日から9日迄、東京都吉祥寺「GALLERY KAI」にて開催される「手塚治虫の美女画展」。“手塚治虫作品のエロス”について焦点を当てたこの展示会と連動して行われる『手塚治虫の美女画展』×『MangaStyle』の特別対談の二回目のゲストは『傷だらけの天使たち』『月光の囁き』等ギャグからシリアスまで”エロ”を題材にした作品を代表作に持つ漫画家・喜国雅彦さんと、喜国夫人で同じく漫画家である国樹由香さんを迎えた鼎談形式。

企画の発端は1999年イースト・プレス発刊の漫画雑誌『COMIC CUE volumeSIX 特集:手塚治虫REMIX』号にて、トリビュート作品として喜国さんが『アポロの歌』を、国樹さんが『手塚ワールドにおけるかわいいがいっぱい!』を寄稿、その掲載作品を見た手塚るみ子さんから是非作者のお二人に御話を伺いたいとの希望で鼎談が実現した。

開始の前の何気無い雑談から、手塚さんと喜国さんの間にとある偶然が発覚!

喜国) 昨日鼎談前にるみ子さんの経歴を見ていて驚いたのですが、るみ子さんが勤めていた会社で僕も同じ時期にアルバイトしていました。

手塚) ええっ、本当ですか?

喜国) 感慨深いです。その頃僕は手塚プロ出身の高見まこさんのところでアシスタントしながら持ち込みをしていました。そんなところで手塚先生と繋がっていたのかと感動しました。そういう想いも込めて今日はよろしくお願いします。

-不思議な縁に導かれた様に3人の会話が始まっていった。


“巧妙で危険”な手塚作品

喜国) 僕は現在56歳になるんですが、アニメの『鉄腕アトム』がドンピシャ世代で、子供の頃はもちろん夢中になりました。 ショックだったのは最終回のアトムの死。でもそこをハッキリ描いていないから、幼かった僕には事情が判らない。「今のどうなったの?」って父親に聞いたら「地球を守るために死んだ」って言われて……。もうね、泣きまくりですよ。なんてひどい終わりなんだと。大好きだった手塚治虫がいっぺんで嫌いになりました。(笑) でもね、今にして思えば、あれはいい体験だったと思います。世の中いいことばかりじゃない。辛いこともある。子供心にそれを知ってしまったおかげで、その後の人生の苦しい場面を難なく乗り越えることが出来てますからね。(笑)

漫画も読んでましたが、家が裕福ではなかったので、買ってもらえるのは誕生日とかの特別な日だけ。数冊だけ持っていた光文社のカッパコミックス版のアトムは宝物で、ボロボロになるまで読み返しました。そして、ある日気がついたんです。「アトムも自分で描けばタダだぞ」と。そこから僕の漫画家人生がスタートしたとも言えるわけです。ということで、今日から僕は堂々と”手塚チルドレン”を名乗りたいと思います。(笑)

手塚) もともと一人遊びで絵を描き始めたんですね。

喜国) 一人っ子で、近所に同じ年齢の友達が少なかったのが理由の一つ。もう一つはさっき言った貧乏。自分で描けばお金がかからない。紙と鉛筆があれば何時間でも夢中になれる。紙がない時は地面に木の枝で描いてました。昔は舗装道路じゃなかったですしね、…ってまるで戦後の話ですけど、当時の田舎はそんなもんでした。 今回のテーマである”セクシャル”にしても、目の前にあったのはウランちゃんだけ。まだセクシーの概念もありませんでしたが、ウランちゃんのパンチラには魅かれるものがありました。

手塚) 現実にあんなスカート短くて、パンツが丸見えという事は無いですよね。

喜国) 小学校4年生の時、少年ジャンプで『ハレンチ学園』が始まり、初めてエッチな気持ちで漫画を読むことになるんですが、意識下ではウランちゃんを始めとする手塚キャラでセクシャルの概念が出来ていたと思います。 例えばこのフィギュアはどうです? アトムが年上の女性からお尻にエネルギーを注入してもらってるんですが、これはM男的にはたまらないシチュエーションですよ。

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手塚) このフィギュアを作った人もこのポーズには別の意味を持たせていますよね。(笑)

喜国) アトムグッズを買っていたらキリがないので、なるべく手を出さないようにしてるんですが、これだけは僕が買わなきゃと思いまして。(笑) このシーンは漫画からとられているんですけど、読んでる当時はもちろんセクシャルだとは思ってないのですが、こうやって手塚先生には長い年月をかけて潜在意識にいろいろなものを植え付けられていたというわけです。

手塚) アトムだからまだ品があるけれど。

喜国) 巧妙で危険です。

手塚) 国樹さんは?

国樹) 子供の頃見たアニメが衝撃でした。その印象が強すぎて、私は『COMIC CUE手塚治虫REMIX』号に参加させていただいた時、『三つ目がとおる』のお風呂シーンを描いたんです。同級生の和登さんに体を洗ってもらう写楽くんというシチュエーションがエロすぎると。(笑) 手塚先生はかなりきわどい絵を描かれても上品で。そういうところも憧れます。

喜国) 男の写楽くんより女の和登さんの方が大きいという対比はM心をくすぐります。

手塚) お母さんと息子、お姉さんと弟っていう。

国樹) そして、手塚先生の女性キャラクターは足先が小さいですよね。あれが凄いエロティックに見えて仕方なかったです。中国の纏足(てんそく)的なセクシーさというか。不安定さと可愛らしさの同居という感じでしょうか。

手塚) 『COMIC CUE』の中で、国樹さんが”手塚作品の可愛いシーン”を沢山取り上げてくれて、あらためて手塚の描く可愛さを知ることが出来ましたね。

国樹) 本当に「可愛いー!」って身悶えしながら読んでいました。『COMIC CUE』では自分絵で手塚先生キャラを描いてみたものの、全く太刀打ち出来なくて。元絵が可愛すぎるんです。人間も動物も愛くるしい。

「らびちゃん」

「らびちゃん」


“トラウマ”の宝庫

手塚) 喜国さんがあの『COMIC CUE』で『アポロの歌』をトリビュートで描いてくれたじゃないですか。それまであの漫画についてなんとも思っていなかったのですが、喜国さんの作品を読んで、「あっ! そういうことなんだ」というのを改めて感じました。それまで父親の作品をエロティックだとかセクシーだとか考えなかったのに、こういう見方もあるんだと気づかされたんですよ。

喜国) 『アポロの歌』は僕と田中圭一くんの性癖を決定づけてくれました。あ、イカン。田中圭一の名前は絶対に出さないと決めていたのについ。(笑)

手塚) お母さんがエッチしているシーンを見ちゃうというのは相当なトラウマになるんだろうなと思って。

喜国) 1968年に『ハレンチ学園』が始まり「少年マガジン」では劇画が始まり、70年頃は少年漫画と青年漫画の垣根が曖昧になった時期で、手塚先生の『アポロの歌』も大いなるチャレンジでした。

手塚) 『やけっぱちのマリア』あたりの時代ですよね。

国樹) 男の人はこんなことを考えているのかと思いました。私は手塚先生の作品をリアルタイムでも読みましたが、後追いで読んだものが多いです。大人になっていたからこそ理解出来た作品も沢山ありますね。

喜国) 由香ちゃんが僕のアシスタントだった頃、仕事場にあった手塚全集を片っ端から読んでました。最初の印税が入った時に、高田馬場の未来堂書店でまとめて300冊買ったヤツだったんですけどね。僕はじっくり時間をかけて読んでたのに、彼女はまとめてガーッて読むんです。「ああ、勿体ない。もっとゆっくり読みなさい! 違うっ、火の鳥はそうやって読むものじゃない!!」って注意するのですが、止まらなくて。(笑)

国樹) 喜国さんが買ったのに私が先に読了してしまって。(笑)

喜国) 僕なんか読む順番も考えてましたよ。『ブッダ』とか『火の鳥』とか大好きな作品はとっておいて、連載が中断した作品や短編集から読んでいくんですよ。

手塚) 300冊が一気に自宅に届いたら、その読み甲斐といったら相当なものですものね。一日一冊読んでいったとしても300日はかかりますね。(笑)

喜国) 一日一冊なんてもったいない。一日一話ずつ。(笑)

国樹) 私は『ブラック・ジャック』も一日で全話読んでしまいましたね。昔読んだ作品ということもありましたが、全話分を一気読みしないと気がすまない性格で。特に手塚先生の作品は面白すぎるから、本当に止めどころが判らなかったです。

喜国) ああ、己の身体に染み込んだ貧乏性が恨めしい。

手塚) じっくり読んでる中から、特にエロに限っているわけではないのに『COMIC CUE手塚治虫REMIX』号で『アポロの歌』を選んだというのはなんでだったんですか?

喜国) 『COMIC CUE』のあとがきにも書きましたが、手塚治虫は僕らに夢と希望を与えてくれたと同時に悲しみや絶望も示してくれました。最初に言った”アトムの死”のように。 僕にとっての手塚作品は、やはりそちらなんです、だから僕のトラウマに焦点を当ててみようかなと。

手塚) 手塚ファンの中には、むしろそんなどろどろした気持ち悪くなるような作品を読んで心に引っかかった人もいると思うんですよ。

喜国) トラウマといえば『マグマ大使』にもありました。ロケット姿のマグマ大使がガロンに殴られているシーンなんですが、内蔵が飛び散っているんです。「え、マグマ大使って、ロボットじゃなかったの?」ってビックリしてね。機械だと痛みは感じないんですけど、内臓は痛い。しかも連載ではその回はカラーで、内蔵がピンクで塗られているんですよ。で、そんなとこ見たくないのに、気がつくと開いてそこだけ読み返している。あれも今考えると、セクシャルな気持ちで見ていたのかもしれません。

手塚) ロボットという鋼鉄なイメージのあるものから内臓的な血の通ったものが出るっていうギャップが凄いですよね。アトムもロボットなんだけど人間よりやわらかそうに見える。

「マグマ大使 ブラックガロン編」

「マグマ大使 ブラックガロン編」


”可愛い”の宝庫

喜国) 今回のテーマ”美女画”に話を戻すと、『マコとルミとチイ』の母親がいいですね。美しい上にどんな危機的状況でも笑顔でいられる性格にグッときます。

手塚) 喜国さんはマザコンではないですか?

喜国) 違います。僕が好きなのはあくまでも”ママ”であって、四国にいる”オカン”ではありません。”実際のオカン”と”心の中のママ”は別物です。ここは大事なところですから、ハッキリ言っておきます。『マコとルミとチイ』のママは『バカボン』のママと合わせて、僕にとっての二大ママです。

手塚) 凄いところを指してきましたね。(笑) でもこれが描かれたのは私が中学生くらいの頃で、長電話してたシーンとか当時の実際のエピソードが色々使われてますね。漫画のネタにしようとどこかで隠れて見ていたのか。単行本で読んだ時、どこで父は見てたんだ!? と思いましたね。 長電話の相手の男の子から告白されて「ええー、ウソー」みたいな場面とか。まさか父親が見ていたとは思っていなかったので驚きましたね。丁度中学の時でした。あと母が交通事故に合ったり、近所の工場が火事になったり、結構事実が入っているんです。

喜国) 『マコとルミとチイ』ファンの僕としては、まさかこうやって”ルミ”ご本人と会えるとは思っていませんでした。

国樹) 手塚先生が大人の女性キャラクターを描く時、モデルはいらしたのでしょうか。

手塚) それはありますね。あれは母なんだと思っていましたけれど、どうもそうではなさそうなんです。少年時代のやさしかった母親の面影だったり、初恋が年上の女性だったようなのでそういった部分もあるかもしれないですね。

喜国) 男子は先生のこと好きになったり、遠足でバスガイドさんのこと好きになったりしますからね。

手塚) 後は宝塚歌劇を見て育ったので、宝塚のお姉さんたちの凛々しく麗しくという女性像が出来ている。スタイルも理想のスタイルになってますよね。父は凄いマザコンでしたから。 年をとると少年に戻っていくのかもしれませんね。 国樹さんは女性からみて手塚キャラのエロスをどこに感じていましたか?

国樹) 繰り返しになりますが女性の足が小さいところ。纏足的だけれど悲壮なイメージはなくて、ただひたすら可愛らしいです。 リボンの騎士のサファイアは可愛くてパンク。当時はみんながサファイアに憧れましたよね。今見ても魅力が色褪せないのだから当然。

手塚) アトムは足が大きいんですが、女性キャラを描くと確かに小さくなりますね。 だいたい22センチくらいですよね。足を小さく描かれると色っぽく感じるんでしょうか。

国樹) 私が学園漫画を描くと手も足も大きめになってしまいます。男性キャラならありだけれど、ヒロインは足が小さいほうが断然セクシーで可愛いのではと。でも、自分では上手く表現出来ません。

手塚) 言われてみると少女マンガの人物は足が小さいですよね。

国樹) 手塚先生のデフォルメが大好きなんです。すごく漫画的に描かれているのに、不自然さが全然ない。

手塚) 男性キャラは手足の先が大きいですよね。女性キャラは頭の大きさからするとバランスが小さい。

「ふしぎなメルモ」

「ふしぎなメルモ」

手塚) デフォルメはご自身の作品の絵柄に影響はあるんでしょうか?

国樹) 自分は初連載が犬漫画だったんです。いざ自分で描いてみて、手塚先生の描かれる動物の偉大さを再認識しました。

手塚) 今回の美女画展のテーマはエロスですけれど、次にまた展覧会を企画するとしたら“可愛い”というテーマでやりたいというのは凄くあります。

国樹) 是非! レオのちょっとしたしぐさなんて、悶絶ものの可愛さです。

喜国) 今なら狙ってやるんでしょうけど、手塚先生の時代は狙ってないですからね。ストーリー上必要だから描いているだけですよね。

手塚) この時代にはまだ“可愛い”という切り口はそんなになかったから。むしろ取り上げるなら今だなと思いましたね。

国樹) 可愛い特集で本を一冊出していただきたいです!

=>「影響を受けた」なんて恥ずかしくて言えない

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