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漫画家はその人のみで漫画家にあらず! 必ず影響を与えた「誰か」がいたり、「何か」があるもの。

「源流を探すマンガ旅」では、その漫画家が一体どんな「他の漫画家」に影響を受け、今生み出している作品にどう表現されているか、漫画家の “源流”を辿っていきます。 第3回目は高瀬志帆先生の源流を辿るとともに、これまでと少し方向性を変えて高瀬先生ご自身の作画表現や、漫画家としての活動について伺いたいと思います。

[構成・執筆=川俣綾加]
▼プロフィール
高瀬志帆
12月21日生まれ、趣味は散歩、耳かき、音楽。『めざせ!山カゾク』(双葉社)、『この育児がすごい!!』(秋田書店)ほか作品多数、現在は『おとりよせ王子 飯田好実』(コミックゼノン)、『イケナイ家族(ファミリー)』(エレガンスイブ)を連載中。
twitter:https://twitter.com/hoshi1221
▼プロフィール
謎の漫画家・R
画業20年目を迎えたことで後輩作家達が親分のような扱いをされているが、実際は普通の気の弱い優しいおじさんであることを言い出せずにいる。好きなものはもつ焼きとホッピー。ぼちぼち社交性はあるが、居酒屋に1人では入れない。

この雑誌の中で自分は何を求められているのか?

「おとりよせ王子飯田好実」第1巻

「おとりよせ王子飯田好実」第1巻

—R
今日はよろしくお願いします。高瀬先生は今コミックゼノンで『おとりよせ王子 飯田好実』を連載中ですが、初めは高瀬先生がコミックゼノンで、と聞いてちょっと意外な気もしました。これまで女性向け雑誌がメインかなと思っていたので。

—高瀬志帆先生(以下、高瀬)
そうですね、声をかけて頂いた時は「私は何を求められているのだろう?」と立ち止まって考えました。おっしゃる通り元々は女性誌出身で、女性誌って情報量を詰め込みすぎないように描くのがセオリーなんです。そんな私に声がかかったということは、数々の濃度の高い連載作品のあるコミックゼノンの中では箸休めを求められているのかも、と考えました。

—R
コミックゼノンの他の連載作品って、すごく画面の密度が高いですよね。読み応えがあるというか。

—高瀬
青年誌は個人的に好きなんですが、全てのページで画面が濃いと読者は疲れてしまうっていうのもあります。緩急がついていたほうが良いのではないかと思ったのと、連載は東日本大震災前にスタートしたのですが、1巻が出てすぐの頃に東日本大震災があって。

—R
あの災害は、漫画家の考えをすごく変化させるものでした。

—高瀬
私もその1人で、人間関係の話など物語性も出していますがそれぞれの価値観で楽しく暮らしている人を、何も考えずに肩の力を抜いて読めるような作品があっていいんじゃないかと思い、今のような方向性になりました。

高瀬志帆先生は自宅の一室で原稿を描いている

高瀬志帆先生は自宅の一室で原稿を描いている

コピック、トレース台などが置かれている

コピック、トレース台などが置かれている

—R
雑誌からオフォーが来て、「なんで自分に連絡をしたのだろう」と立ち止まって考えるのは僕もあります。なかには「自分は巻頭カラーを取る!」とか「絶対1番になる」という方もいるみたいですけど。

—高瀬
作家性でやっているタイプでもないので(笑)、やっぱり役割とか、そういうことを考えるのも大切かなと思います。あとは、青年誌で男性ではなく私に話が来た、というのも意識しました。

壁にはドラマ化した時のポスターも。サイン入り!

壁にはドラマ化した時のポスターも。サイン入り!

—R
グルメマンガの案は高瀬先生からでしょうか? 食にもともと興味があったのでしょうか。

—高瀬
モデルというわけでは無いのですが編集さんがお取り寄せ大好き、というところから始まりました。私自身も子どもがいてしょっちゅう取材に出られるわけではないのでピッタリというか、正直いうと助かっています(笑)

“淡い画面”、だが情報密度は高く

—R
今回、特にお聞きしたいのは『おとりよせ王子〜』の画面の濃度についてなんですよね。線が多くて黒いというわけではないのに、画面から受ける印象は「濃い」。情報量が多いことになるんですかね。それを意識的にやっているのでしょうか?

—高瀬
初期の頃は他の掲載作品に引っ張られて「濃くしないと」みたいな気持ちもあって、1巻だと線を引いた後に顔にトーンで影をかけたりして濃度を出したり……。でも単行本で見てみると情報量が多すぎる気がしたんです。雑誌だと浮かないんですけれど。先ほどのお話に出た「自分に仕事が来た理由」にもつながるのですが、男性と同じようなことをやってもしょうがないんじゃないかって思い至ったんです。

—R
なるほど。

—高瀬
もう一つ、初期はもう少しイラストっぽい絵柄でもいいかなと思いましたが、そうすると手癖が出やすくなるのでアシスタントさんが変わるとバランスが変化してしまうんです。そうすると私の作業量が増えてしまって、分量的に厳しくなってしまう。

—R
色々な検討を重ねた上での今のバランスなんですね。

—高瀬
単行本は女性が手に取ってくださることが多く、そこで女性誌での経験上、画面に線や情報を詰め込みすぎると良く無い、空間をきちんと作らないといけないということで、単行本のみで見た時のバランスを想定して作画しています。人物はあっさり描いて、食べ物はリアルに、濃く。そのほうがメリハリがきいていい画になる。まだ試行錯誤中ではありますが、そう考えています。

—R
確かに高瀬先生の描く食べ物はすごくリアルで、食欲がそそられます。刻んだネギなど細部まで描くことでおいしさが増す、ということですね。

—高瀬
最近特に思うのは、湯気は多めに描いたほうが臨場感が出るということですね。食べ物のツヤも写真より増やしていたり、たれていない部分にも液体をたらしたり、写真そのままではなく脚色しています。

—R
なるほど、湯気があるのと無いのとでは、全く違います。

—高瀬
やっぱり、食べるのが好きな人が描くグルメマンガってすごく美味しそうだと思うんです。新久千映先生の『ワカコ酒』なんて、もう新久先生は絶対お酒好きでしょ! みたいな。読者に伝わってしまいますから。

—R
今は読者もニッチになっているから、嘘をついてしまうとバレるんですよね。やらされ仕事は嘘が出る。

—高瀬
そういうの、ありますよね。『おとりよせ王子』は美味しいものが好きで、だからといって四六時中家をあけられるわけではなく、「おうちで色々できれば嬉しいな」という私にピッタリな作品なんだと思います。

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トーンを収納する棚。部屋全体や机もそうだが、どれも美しく整えられている

トーンを収納する棚。部屋全体や机もそうだが、どれも美しく整えられている

—R
料理はもちろん、パッケージなども細かく描かれていますね。

—高瀬
細かくて大変な時は一度撮影してからトレースして、線を間引いたりなどしています。写真は撮らないと、特に女性のアシスタントさんは縦パースを取らずに入れてしまうことがあるんです。例えば遠くにあるコーヒーカップを撮影して、ただクローズアップしただけのコーヒーカップを描いてしまったり。女性誌全体がそういう傾向があるのかもしれません。

—R
僕もそれでアシスタントさんに描き直してもらうことがあります。車のはずがマッチ箱にタイヤついてるみたいな絵になっていることがあったりして。

—高瀬
青年誌はちゃんと構造、パースを考えて描かないとリアリティが出ないんです。

—R
パース理論がわかっている女性の漫画家さん、というのがもしかしたら画面の情報量の話につながってくるのかもしれません。曖昧にするのではなく、きちんと細部まで描き出しつつ、間引くところは間引く。

—高瀬
私ができているかというとまだまだですが、なるべく臨場感が出るようには意識しています。

—R
高瀬先生のような作画スタイルを「逃げない」という風に僕は言っていて、パースがわからないからと逃げる、曖昧に描くのではなくちゃんとパースをとって描くことで、テーブルの上にソーサーがあってその上にカップがあって、これは高瀬先生のコーヒー、こっちは僕のコーヒーと伝わる画になると思うんです。

—高瀬
『おとりよせ王子』でも徹夜続きのIT企業を描く時、ただパソコンがのったデスクを描くのではなく、ケーブルがちょっとゴチャついてたり栄養ドリンクが乱雑にならんでいたり……そういうディテールをパースをつけて最後まで描き切るのは大切。アシスタントさんにそういう部分をお願いすることはけっこう多いです。

—R
技術と根性がいい画面を生むんですね。

【Rのふり返り】
掲載誌における自らの作品の立ち位置を考え、画面構成、画風もシフトさせるバランス感覚が高瀬先生の表現の礎とも言えるのではないだろうか。

(後編へ続く)


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