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少女まんがを読んで、キャラクターに自分を重ね合わせ、その世界に入りたいと思ったことはないだろうか?10月19日まで、六本木ヒルズ森アーツセンターギャラリーで開催中の「わたしのマーガレット展~マーガレット・別冊マーガレット 少女まんがの半世紀~」は、397点に及ぶ原画と趣向をこらした展示方法でまんが雑誌の世界を再現。思わず作品世界に入り込んだような気にさせてくれる。淡い恋にドキドキしたときの気持ちを思い起こして、ヒーロー・ヒロインに会いに行ってはどうだろうか?
写真1)トレードマークは王冠。いつの時代も王道を作り出してきたという自負がある

トレードマークは王冠。いつの時代も王道を作り出してきたという自負がある


「少女まんがの半世紀」と銘打たれた今回の展覧会。多くのまんが雑誌が創刊・休刊を繰り返すなかで、ひとつのブランドが50年続くというのは貴重なことだ。内覧会で挨拶した今井孝昭別冊マーガレット編集長は「雑誌のおもしろさを再認識してほしい」と原画展の狙いを話した。単なるイベントではなく、アーカイブにつなげるため、京都国際マンガミュージアムと連携。同ミュージアムの倉持佳代子研究員によると「雑誌は基本的に読み捨ての文化。出版社が雑誌の価値を認めて伝えようとするのはなかなかないこと」という。

倉持研究員は、マーガレットを「恋愛という大きなテーマを扱いつつ、時代ごとにいろいろな挑戦をして、いつのまにか少女まんがの王道にしていた」と評する。これらの言葉が示すように、展示では雑誌のこれまでの挑戦を楽しめるようになっている。
会場に入ると、すぐに新旧のキャラクターたちがお出迎え

会場に入ると、すぐに新旧のキャラクターたちがお出迎え


来場者を最初に迎えてくれるのは、「カレイドスコープシアター」。オリジナル映像「100のキス…Love&Kiss Forever」の中では、音楽にあわせ、『ホットロード』(紡木たく先生)『イタズラなKiss』(多田かおる先生)『君に届け』(椎名軽穂先生)など新旧の名シーンが流れ、見ている人を、ときに心が温まり、ときに胸を締め付けられる青春の恋の世界に引きずり込む。

少しふわふわした気分になって会場を進むと、原画の展示がスタート。397点の原画を、10章に分けて展示している。あえて年代順ではなく、複数の作品をテーマ別にまとめており、様々なタイプの作品が載っている雑誌的楽しさがある。

第1章「マーガレット・別冊マーガレットの誕生」には、創刊号のほか、わたなべまさこ先生、水野英子先生ら初期を支えたまんが家の原画がずらり。ドラマにもなった『おくさまは18歳』の原作が、本村三四子先生のまんがだったというのはご存じだろうか。
貴重な創刊号の実物も。今から考えられないほど薄かった

貴重な創刊号の実物も。今から考えられないほど薄かった


第1章の展示室の壁は、ピンクが基調。シンプルながら「恋愛」の空気がとても伝わってくる

第1章の展示室の壁は、ピンクが基調。シンプルながら「恋愛」の空気がとても伝わってくる


別冊マーガレットのまんがスクールでデビューした美内すずえ先生の原画も。スクリーントーンなどがあまり普及していなかった時代ながら『魔女メディア』のカラー原画の完成度は目を見張る。
印刷された雑誌や単行本では伝わらない「生」の原画の持つ美しさに圧倒される

印刷された雑誌や単行本では伝わらない「生」の原画の持つ美しさに圧倒される


第2章は「スポ根少女から、踊るヒロインまで」というテーマで、恋愛以外のスポーツやダンスといった身体表現に打ち込むヒロインの姿を目にすることができる。友人やチームメイト、同性のライバルとの強い絆が描かれた作品も多い。壁にはコマを拡大したパネルや擬音表現が並び、一気に「まんがの世界」に飛び込める。
槇村さとる先生の『愛のアランフェス』。原画だけでなく、展示方法にも注目を

槇村さとる先生の『愛のアランフェス』。原画だけでなく、展示方法にも注目を


躍動するヒロインたちの姿は原画だけでなく展示室の壁にも

躍動するヒロインたちの姿は原画だけでなく展示室の壁にも


ちなみに第3章は「怪奇から幻想へ~こわいまんがの系譜~」というホラーまんが特集。『白へび館』(古賀新一先生)などたった数枚の原画でも怖いので、苦手な方はほどほどに。
がらりと雰囲気のかわるホラーコーナー

がらりと雰囲気のかわるホラーコーナー


コメディ・ギャグのコーナーは一転してポップな色使いに。紹介されているのは『つる姫じゃ~っ!』(土田よしこ先生)や『伊賀野カバ丸』(亜月裕先生)など

コメディ・ギャグのコーナーは一転してポップな色使いに。紹介されているのは『つる姫じゃ~っ!』(土田よしこ先生)や『伊賀野カバ丸』(亜月裕先生)など


『つる姫じゃ~っ!』は、6~8頭身キャラクターを描く作品が多い中、3頭身キャラクターを使った赤塚不二夫的ギャグマンガ

『つる姫じゃ~っ!』は、6~8頭身キャラクターを描く作品が多い中、3頭身キャラクターを使った赤塚不二夫的ギャグマンガ


展示の中盤以降の章立てでは、数多い作品をよく考えられた切り口で見せている。同じ「恋愛」というテーマでも、表現の仕方やキャラクターの設定・造形は多種多様。『マーガレット』や『別冊マーガレット』がいかに多くの「かっこいい男の子キャラクター」を生み出してきたのかもよくわかる。
「第6章きらめく個性~少女まんがの多面体~」に展示された尾崎南先生の『絶愛―1989―』の原画。同人誌作家を登用し、マーガレットで男性同士の愛憎をテーマにするなど当時としては非常に衝撃的な作品だった

「第6章きらめく個性~少女まんがの多面体~」に展示された尾崎南先生の『絶愛―1989―』の原画。同人誌作家を登用し、マーガレットで男性同士の愛憎をテーマにするなど当時としては非常に衝撃的な作品だった


第7章LOVE,LOVE.LOVE至極の恋愛コレクション」内のいくえみ綾先生の原画からは、いくえみ綾先生の絵柄の変化がよくわかる

「第7章LOVE,LOVE.LOVE至極の恋愛コレクション」内のいくえみ綾先生の原画からは、いくえみ綾先生の絵柄の変化がよくわかる


今回の原画展には、50年の歴史を担ってきた数多くのまんが家が参加している。テーマ別に設定したそれぞれの展示室に、複数のまんが家の原画をいくつか展示する中、2人だけあえてひとつの章を独占しているマンガ家がいる――池田理代子先生と紡木たく先生だ。

なぜこの2人なのか。それは「マーガレット・別冊マーガレットのそれぞれで挑戦的なことをした作家」(京都国際マンガミュージアムの倉持研究員)だからだ。

第5章のタイトルはすばり「孤高の表現者・紡木たくの世界」。まんがではどうしてもコマの中でキャラクターの顔の存在が大きくなるなか、『ホットロード』などでモノローグに背景やキャラクターの後ろ姿を組み合わせて心情を巧みに表現した。
飛び込んでくる『ホットロード』の春山と風景画

飛び込んでくる『ホットロード』の春山と風景画


展示されている原画は限られたエピソードだけ。それなのに、キャラクターの叫びが伝わり、じんときてしまった。背景とモノローグ、練りこまれた言葉でキャラクターの表情すら読者に想像させようとする力は強力だ。
あまりにも有名なあのシーンの原画も

あまりにも有名なあのシーンの原画も


内装もモノトーンに背景画と抑制がきいている

内装もモノトーンに背景画と抑制がきいている


一方の池田理代子先生は第8章に。少女マンガに「歴史物」を持ち込んだ革新的な作品『ベルサイユのばら』のほか、『オルフェウスの窓』の原画が並ぶのはファンにはうれしい。ベルばら部分の壁は煉瓦色、オルフェウス部分は石造りというディテールも心憎い。
女まんが界に名を残す革新者、池田理代子先生

少女まんが界に名を残す革新者、池田理代子先生


ウィーン・ロシアなど古い欧州が舞台になった『オルフェウスの窓』の展示には、石造り風がよく似合う

ウィーン・ロシアなど古い欧州が舞台になった『オルフェウスの窓』の展示には、石造り風がよく似合う


描かれたものだとわかっていてもどきりとする

描かれたものだとわかっていてもどきりとする


今回の展覧会ために作られた「オスカルとアンドレの等身大立像」(c)池田理代子プロダクション

今回の展覧会ために作られた「オスカルとアンドレの等身大立像」(c)池田理代子プロダクション


恋愛まんがとともに生み出されてきた、多彩な男の子たち。1人だけ愛するもよし、たくさんの殿方を一度に愛でるもよし

恋愛まんがとともに生み出されてきた、多彩な男の子たち。1人だけ愛するもよし、たくさんの殿方を一度に愛でるもよし!


同級生、先輩、先生と、少女まんがの恋愛の相手は学校で出会う相手が多く、必然的に作品の舞台は学校が多い。第9章は「舞台は学園!!~恋も友情もいつもここから~」と名づけられ、展示スペースに学校の教室が再現されている。黒板に掲示板、学校風の窓と机――大人になった昔の読者にとっては、中高生時代に一瞬戻ったような気になる。

もちろん原画もたっぷり。『恋愛カタログ』(永田正実先生)『アオハライド』(咲坂伊緒先生)などの原画を見ていると、教室のなかでクラスメイトの恋愛模様を眺めている気分になる。教室の中の先生にあこがれるというのもいいだろう。
数々の少女まんがの舞台になった「学校」に入る

数々の少女まんがの舞台になった「学校」に入る


黒板前には『先生!』(河原和音先生)に登場するキャラクター、伊藤先生が立つ

黒板前には『先生!』(河原和音先生)に登場するキャラクター、伊藤先生が立つ


教室の窓の外の学友とのおしゃべりを楽しんでみては?

教室の窓の外の学友とのおしゃべりを楽しんでみては?


50年分の歴史を背負い、『マーガレット』『別冊マーガレット』どこへ行くのか。「第10章マーガレット&別冊マーガレット、私たちの未来とともに」に並ぶのは、書き下ろしの「恋する屏風」のほか、『君に届け』『圏外プリンセス』(あいだ夏波先生)『俺物語!!』(作画アルコ先生・原作河原和音先生)など現在連載中の作品の原画だ。『俺物語!!』の剛田猛男のような新しい少女マンガの男の子像、『君に届け』や『圏外プリンセス』のようなコンプレックスを持ったヒロインと、新しいキャラクターを生みだしつつ、根底では恋愛・友情という人間関係を大切にする姿勢は変わっていないことがわかる。
描き下ろしの「恋する屏風」。ガラス板にサインペンで掻き下ろされたキャラクターが並ぶ。素敵な恋を応援してもらっている気持ちに

描き下ろしの「恋する屏風」。ガラス板にサインペンで掻き下ろされたキャラクターが並ぶ。素敵な恋を応援してもらっている気持ちに


グッズショップに並ぶ商品のほとんどは展覧会限定のオリジナル。各作品のキャラクターや名シーンを使った付箋は、どんなシチュエーションで使うのかを考えるのも楽しい(写真はパタパタ付箋「君に届け」(c)椎名軽穂 税抜600円)

グッズショップに並ぶ商品のほとんどは展覧会限定のオリジナル。各作品のキャラクターや名シーンを使った付箋は、どんなシチュエーションで使うのかを考えるのも楽しい(写真はパタパタ付箋「君に届け」(c)椎名軽穂 税抜600円)

貴重な複製原画の販売も

貴重な複製原画も販売している


10代の恋愛・友情をテーマにした作品は、大人には少し面はゆいかもしれない。だが、恋愛・友情は相手を大切にするという人間関係のひとつ。日頃の複雑な人間関係を一旦忘れ、素直に入り込むのが楽しむポイントだ。まっさらな気持ちで展覧会を訪れれば、「恋愛まんがは苦手」と思っている人も、好きなヒーロー・ヒロイン、お気に入りの作品に出会えるかもしれない。

[取材・文=bookish(マンガナイト)]

▼展覧会情報
「わたしのマーガレット展 ~マーガレット・別冊マーガレット 少女まんがの半世紀~」
開催期間:9月20日(土)~10月19日(土)
開催場所:六本木ヒルズ森アーツセンターギャラリー
会場時間:10:00~20:00(入館は閉館の30分前まで)
※会期中無休
入場料:当日券一般1800円(税込)
URL: http://my-margaret.jp/

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