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企画展「日本SF展・SFの国」

 みなさんは「SF(=Science Fiction)マンガ」と聞いてどんな作品を思い浮かぶだろう。

 『PLUTO』(浦沢直樹)や『GANTZ』(奥浩哉)など近未来的な機械技術が出てくる作品から、『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ)といったタイムスリップ作品。未知の存在が人間を襲うという点で『進撃の巨人』(諫山創)もSFたりうるかもしれない。あげればきりがないほど、現代において「SF」というジャンルはマンガの世界に広く浸透している。
日本SF展

日本SF展


 そんなSFマンガは小説や映画といったほかのジャンルのSFの広がりと切っても切れない縁がある。つながりがよくわかるのが、「SF」が日本にどのように広まっていったかを振り返る企画展「日本SF展・SFの国」だ。世田谷文学館(東京都世田谷区)で9月28日まで開催している。
企画展「日本SF展・SFの国」

 


 会場は「日本SF大学校」というコンセプトのもと、小説、マンガ、映画などさまざまなSF作品の資料を展示。構成はおおまかに、①日本SFの概要、②手塚治虫ら「日本SF第一世代」の功績、③日本SFを引き継いだ浦沢直樹のコーナーととなっている。「ウルトラマン」など円谷英二の特撮技術や大阪万博博覧会など、SF史全体を多面的に捉えていて、SFを拡がりを実感できるだろう。
SFの父・海野十三の著作。手塚治虫ら第一世代が夢中になって読んだ

SFの父・海野十三の著作。手塚治虫ら第一世代が夢中になって読んだ

SFの歴史そのものともいえる『SFマガジン』を一挙展示。1960年ごろから作家陣に萩尾望都や吾妻ひでおといったマンガ家の名前も登場してくる

SFの歴史そのものともいえる『SFマガジン』を一挙展示。1960年ごろから作家陣に萩尾望都や吾妻ひでおといったマンガ家の名前も登場してくる

『緊急指令10-4・10・10』の電波銃と『ウルトラマンタロウ』のZAT ヘルメット 1972‐1973年 世田谷文学館蔵 (C)円谷プロ

『緊急指令10-4・10・10』の電波銃と『ウルトラマンタロウ』のZAT ヘルメット 1972‐1973年 世田谷文学館蔵 (C)円谷プロ


 中盤にあたる「日本SF専門講義」コーナーでは日本SFの第一世代の代表格5人をピックアップし、それぞれの原稿・原画などを展示。SFに関する重要なキーワードも公開している。小説家の星新一、小松左京、筒井康隆、イラストレーターの真鍋博とならび、マンガ家からは手塚治虫が選ばれている。SFマンガは、日本に「SF」というジャンルが立ち上がると同時に、その世界の広がりに貢献してきたのだ。

「作家たちが読む<手塚治虫>」

「作家たちが読む<手塚治虫>」

 手塚治虫のコーナーには『ロストワールド』や『鉄腕アトム』などの原画が飾られている。一方で解説ボードには「作家たちが読む<手塚治虫>」と称し、筒井康隆や星新一らによる手塚作品へのコメントが並んでいて興味深い。

「『鉄腕アトムの表情は単純でとぼしい』と指摘した人があった。言われてみるまで気のつかないことだった。ロボットなのだから、おおげさに表情が変わってはおかしいわけだ。しかし、アトムは読者の心のなかに、喜怒哀楽をふんだんにもたらし、興奮の印象を残している。…(略)…ここに手塚さんの才能がある。シチュエーション、構成、ストーリーの展開、小道具のアイデア、会話のひとつひとつにいたるまで、すべてがからみあって物語をきずきあげているからだ」(星新一『手塚治虫』)

 ロボットという当時はまだ空想の中にしかいない無機質な存在を、愛着を感じるよう生き生きと描いた手塚治虫。引用文を読むと、人々が想像しがたかったSFというジャンルをわかりやすくおもしろく形にしていった、彼の偉業が理解できる。

 ほかにも小松左京のコーナーでは、小説『日本沈没』を書くために“使いまくった”という、当時世に出たばかりの電卓(キヤノーラ1200、価格は12万6千円)も展示。第一世代がSFを世間に送り出すため、あらゆる手を尽くした姿が見えてくるだろう。
小松左京原作・石ノ森章太郎作画のマンガ『宇宙人ピピ』など(左)、星新一コーナー(右)

小松左京原作・石ノ森章太郎作画のマンガ『宇宙人ピピ』など(左)、星新一コーナー(右)


 そんなSF第一世代の作品を敬愛し、現代でSF作品を作り続ける作家の1人が浦沢直樹だ。終盤「日本<演習>」コーナーでは『20世紀少年』のカラー原画、『PLUTO』の原作となった『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」の原画など、浦沢に関する資料が並ぶ。ここにきて、展示で見てきたさまざまなSF作品が浦沢作品の中に取り込まれていることがはっきりとわかるのだ。
『20世紀少年』展示風景 (C)1999、2006 浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館

『20世紀少年』展示風景 (C)1999、2006 浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館

 浦沢が高校時代に描いたマンガノート(複製)からは、「手塚治虫における『安達が原』の能をSFにするという」発想をもとに、彼が芥川龍之介の『羅生門』を近未来SFとして描いたこともわかる。隣ではその『安達が原』の原画も公開。「『PLUTO』で「地上最大のロボット」をイラク戦争と交えて現代SFにリメイクする」など、彼の手法の原点を垣間見ることができる。
世田谷文学館では日本SF展に出てきた作品の数多くも販売(左)、SF展オリジナルグッズもかわいい。鉄腕アトムなどがプリントされた「チョコマシュマロ」(右)

世田谷文学館では日本SF展に出てきた作品の数多くも販売(左)、SF展オリジナルグッズもかわいい。鉄腕アトムなどがプリントされた「チョコマシュマロ」(右)


 展覧会の最後を締めくくるのは、SF作家・豊田有恒による来場者へのメッセージ。『鉄腕アトム』のようにSFの世界にしかいなかったロボットが今では現実のものになっていることを踏まえ、こんな言葉がつづられている。
「SFは、創造力を育て上げるゆりかごのようなものだ」
 

 

 SFは、日常にない新しい発想を読者に与え、それが未来の発展をもたらす。そんなSFが現代のマンガに広く定着しているのは、先人たちの試行錯誤の歴史のおかげであり、今の作家たちがその手法を参考に、SF的世界をさらに魅力的な形で読者へ提供しているからだろう。日本SF展を見ていると、私たちがSFマンガを愛してしまうのは必然的だと思えてくる。
[執筆=黒木貴啓(マンガナイト)]


【日本SF展・SFの国 概要】
開催期間 2014年年7月19日(土)~9月28日(日)(月曜休館、ただし7月21日、9月15日は開館し、7月22日、9月16日は休館)
開催場所 世田谷文学館
開場時間 月~金/午後1時~午後8時、土日祝/正午12時~午後7時
入場料 一般800円、高校・大学生、65歳以上600円、障害者手帳をお持ちの方400円、中学生以下無料
URL http://www.setabun.or.jp/exhibition/exhibition.html

▼関連リンク
http://www.setabun.or.jp/exhibition/exhibition.html
世田谷文学館

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