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多くの読者、クリエイターに愛されたマンガ家・土田世紀

 2012年に43歳という若さで早世したマンガ家・土田世紀。彼の急逝後、著作権継承者である夫人の羽倉佳代さんが京都国際マンガミュージアム(以下、同館)に土田の作品および原画資料の活用を提案したことがきっかけで、土田世紀作品を後世に伝えるための「世紀のプロジェクト」が発足した。3回忌にあたる本年、「世紀のプロジェクト」による初の展示企画として5月31日(土)より同館において「土田世紀全原画展――43年、18,000枚。」(以下、本展)が開催されている。

 土田世紀の回顧展は、昨年「横手市増田まんが美術館」で開催された「魂の道程 ─土田世紀回顧展─」に続いて2回目となる。本展は横手の回顧展と同様に土田作品の原画展示を行う会場と、さらに土田作品に敬意を持つマンガ家やアーティストによる作品を展示する2つの会場によって構成されている。

■マンガ家・土田世紀が生まれた <俺>の時代
 メインとなる第一会場は、現在(2014年5月末時点)発見されている全原画(約19391点)を年代記的な作品展示の中で執筆時期を3分割し、その変遷をたどっていく内容だ。

 まず、1つ目の「<俺>の部屋」と名づけられたギャラリーには、デビュー作『未成年』(1986—88)や実質的に初の長期週刊連載作品となった『俺節』(1991—93)など初期の代表作の原画が展示されている。なかでも、土田が高校時代に「漫画アクション」への投稿用に描いた未発表作品『やりきれない気持』(成立年不詳)は貴重な初展示原画だ。

 「<俺>の部屋」に展示されている原画は、いずれも土田が10代の後半から20代の前半に描いたものであり、卓越した画力や作家性が類稀なる才能であったことを改めて確認できる。青春時代の鬱屈とした感情や滾るような情熱が作品のテーマとして扱われると同時に、原画への細かな描き込みにも表れている。
各部屋の命名は羽倉佳代さんによるもの。ギャラリーの中央には生前使用されていた机と椅子が展示されている。

各部屋の命名は羽倉佳代さんによるもの。ギャラリーの中央には生前使用されていた机と椅子が展示されている。


■原画で埋め尽くされた圧巻の光景
 マンガ家としての土田世紀が誕生した青春時代を見届け、薄暗い「<俺>の部屋」を奥へ進むと、部屋一面を埋め尽くす大量の原画に出くわす。壁だけでなく足元にまで原画が敷き詰められた光景には、思わず圧倒されるだろう。2つ目の部屋は、『競馬狂走伝 ありゃ馬こりゃ馬』(1993-99)や2000年にTVドラマ化された『編集王』(1994-97)などで土田が世間に広く認知され人気マンガ家となった時代の原画が展示されている。
数々の作品を量産した時代を圧倒的な原画の物量が物語っている

数々の作品を量産した時代を圧倒的な原画の物量が物語っている

展示しきれなかった原画がショーケースに保存されている。研究員の伊藤氏によると原稿には煙草の匂いが染みついているという

展示しきれなかった原画がショーケースに保存されている。研究員の伊藤氏によると原稿には煙草の匂いが染みついているという


■晩年の人生観を映し出す <月>の時代へ
 数々のヒット作を生み出した時期を抜けると、最後に「<月>の時代」と名づけられたギャラリーへたどり着く。ここには90年代の後半から晩年までの作品が展示されている。この時期になると『同じ月を見ている』(1998-2000)や『雲出づるところ』(2000)など、人間と自然の関係や生死の不条理と向き合った哲学的なテーマを扱った作品が増えてゆく。展示されている原画は当該作品を象徴する場面が選ばれており、1ページ、1コマから土田が作品に込めたメッセージ性に触れることができる。
『同じ月を見ている』の展示場では作中に登場した小物を再現し作品を立体的に見せている

『同じ月を見ている』の展示場では作中に登場した小物を再現し作品を立体的に見せている

原画の上に、プロジェクターから重ねて原画の一コマを投影するという斬新な見せ方

原画の上に、プロジェクターから重ねて原画の一コマを投影するという斬新な見せ方

羽倉さんが、土田との旅にはいつも連れていたというぬいぐるみ。作中にも登場する

羽倉さんが、土田との旅にはいつも連れていたというぬいぐるみ。作中にも登場する


■小学校の校舎を活かした空間的アプローチ
 第一展示室から第二展示室へと移動する途中も、同館の至る所で「土田世紀展」を楽しむことができる。同館は、昭和4年に建設された龍池小学校(1997年閉校)の校舎を改築して作られた施設だ。そのため現在も建物の至る所に小学校の面影を残している。そんな建築的特徴を活かした空間的なアプローチも観者を楽しませる仕掛けになっている。
階段の踊り場にプロジェクターからスキャンした全ての原画を投影している

階段の踊り場にプロジェクターからスキャンした全ての原画を投影している

渡り廊下の前には詩人・三代目魚武濱田成夫が本展のために書き下ろした作品が展示されている

渡り廊下の前には詩人・三代目魚武濱田成夫が本展のために書き下ろした作品が展示されている

第2会場入り口の隣の窓にはガラスの代わりに本展用のパネルが入れられている

第2会場入り口の隣の窓にはガラスの代わりに本展用のパネルが入れられている


■土田世紀作品に共鳴するクリエイターたちの共演
 第二会場では、土田世紀作品への敬意を公言するマンガ家たちによる書き下ろしマンガやイラストが展示されている。企画参加者は新井英樹、信濃川日出雄、青野春秋、えすとえむ、上條淳士、すぎむらしんいち、日本橋ヨヲコ+木内亨、木内 松本大洋。錚々たるメンバーの名前を見ただけでも、土田の存在が同時代のマンガ家たちに与えた影響の大きさを伺い知れる。それぞれの作品からは、土田マンガあるいは本人と出会ったことでマンガ家としての人生観を大きく揺さぶられたことが伝わってくる。
すぎむらしんいちによる追悼マンガの冒頭ページ。これらのトリビュート作品は『SEIKI 土田世紀43年、18,000枚の生涯』(小学館)に収録されている。トリビュート作品の一部は、土田世紀最後の作品となった『夜回り先生 希望編』(小学館)に収録されたものもあり、これはその1つだ

すぎむらしんいちによる追悼マンガの冒頭ページ。これらのトリビュート作品は『SEIKI 土田世紀43年、18,000枚の生涯』(小学館)に収録されている。トリビュート作品の一部は、土田世紀最後の作品となった『夜回り先生 希望編』(小学館)に収録されたものもあり、これはその1つだ


 この他にも、土田の故郷である秋田県出身のマンガ家による寄せ書きや、他分野のアーティストによる題字の書が展示されており、本展でしか実現できないクリエイターたちの共演が楽しめる。
同郷出身のマンガ家による寄せ書き。参加者は矢口高雄、高橋よしひろ、倉田よしみ、きくち正太

同郷出身のマンガ家による寄せ書き。参加者は矢口高雄、高橋よしひろ、倉田よしみ、きくち正太

詩人・三代目魚武濱田成夫による「俺」「ハタチ」「俺節」「編集王」の題字

詩人・三代目魚武濱田成夫による「俺」「ハタチ」「俺節」「編集王」の題字

画家・MAYAMAXXによる「月」「同じ月を見ている」「雲出づるところ」「キャット空中一時停止」の題字

画家・MAYAMAXXによる「月」「同じ月を見ている」「雲出づるところ」「キャット空中一時停止」の題字


 本展は多くの読者、クリエイターに愛されたマンガ家・土田世紀の生きた証を一般に公開する貴重な展示会である。これらの資料をもとに土田世紀研究を進める一方で、遺された膨大な資料をどのように保存し活用して行くかが今後の課題となるだろう。

[松田はる菜]

■展示会情報
期間:2014年5月31日(土)~8月31日(日)
 午前10時~午後6時(最終入館は午後5時30分)
 休館日:毎週水曜日 ※7/10~8/31は無休
会場:京都国際マンガミュージアム 2階 ギャラリー1・2・3および6
料金:無料 ※ミュージアムへの入場料は別途必要
主催:京都国際マンガミュージアム/京都精華大学国際マンガ研究センター
協力:横手市増田まんが美術館/世紀のプロジェクト
URL:http://www.kyotomm.jp/event/exh/tsuchida_seiki_43y.php

■土田世紀(つちだ・せいき)
1969年秋田県横手市生まれ。17歳のとき、「未成年」でマンガ家デビュー。「俺節」「編集王」「同じ月を見ている」など代表作多数。「同じ月を見ている」は、平成11年度文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞、2005年には実写映画化されている。また、2000年には「編集王」が、2008年には「ギラギラ」が実写ドラマ化された。時流に流されないテーマやストレートに心に響くセリフ、天才的な画力で、マンガファンはもちろん、同業者やミュージシャンなどクエリエイターの中にもその作品に惹かれる者は多い。2012年4月24日、43歳の若さで急逝。

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