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史群アル仙というマンガ家の1ページ作品が、Twitterで大きな支持を得ている。

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 手塚治虫のような昭和テイストのどこか懐かしい画風に、日常生活に潜むコンプレックスを寓話のように描いたストーリー。Twitter上に週2~3回のペースで投稿される作品は、毎回約500~2000回、多いときは2万回以上リツイートされる。「なつかしい、かわいい」とされる一方「切ない、泣けた」と共感を呼んでいるようだ。
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 興味深いのは、史群さんが23歳の女性だというところ。作品から作者のことを考えた時、その意外性にほとんどの読者は驚いたことだろう。

 史群さんがTwitterにマンガを投稿し始めたのは2014年1月から。2月1日に投稿したマンガ「ダメ息子とお父さん」が2万8000回以上リツイートされたのを機に、一気に注目が集まった。その頃から確立していた絵柄が、ベテラン作家ではなく平成生まれの作家によるものだという事実は、盛り上がりに拍車をかけた。
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 5月26日~31日に新宿のギャラリー「beginning of the end」で、史群アル仙東京初の個展「COMPLEX2」が開かれた。Twitterで投稿してきた1Pマンガの原画と、彼女が激しい感情をぶつけるときに描くクレパス画の両方を“史群アル仙の二面性”として掲げるイベントだ。この記事では、個展を通して史群作品の明るさと暗さの両義性に迫る。
個展はホテル「アパートメントホテル新宿」の地下ギャラリー「beginning of the end」で開催

個展はホテル「アパートメントホテル新宿」の地下ギャラリー「beginning of the end」で開催

地下のギャラリーにはかわいらしい絵柄の1Pマンガの原稿と、激しいタッチのクレパス画。そして帰るお客さん1人1人に「ありがとうございました」と声を掛ける史群さんがいた

地下のギャラリーにはかわいらしい絵柄の1Pマンガの原稿と、激しいタッチのクレパス画。そして帰るお客さん1人1人に「ありがとうございました」と声を掛ける史群さんがいた


■物心つくころから好きだった昭和のマンガを未来へ

――初の東京での個展開催、おめでとうございます。今日で5日目。お客さんの足並みはどうですか?
ありがたいことに、会場には毎日100~150人くらいの方に来場していただきました。初日は170人を超えましたね。

――多くはTwitterで史群さんの作品を見ている人ですか?
99%そうですね。
在廊中もマンガを描く史群アル仙さん

在廊中もマンガを描く史群アル仙さん


――あの昭和マンガのような画風はいつごろから?
小学2、3年のころにはもう。絵は小さいころからずっと描いていて、先日も2歳ぐらいのときに描いた絵が家から出てきました。幼稚園も行かずずっと家で昭和の少年マンガを読んでいましたね。

――特にどんな作品を読んでいましたか?
小学校1年生のころに手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』を父が全巻買ってくれて。それまでにも永井豪先生の『けっこう仮面』、ちばてつや先生の『あしたのジョー』や『ハリスの旋風』とかいろいろ読んでいたんですが、『ブラック・ジャック』が1番ハマりました。1話20ページでキレイに短く収まっているのに、映画を観ているような濃さがある。マンガの基礎すべてが詰まっていて、今でも勉強のために毎日読んでいます。

――物心ついたときから昭和のマンガ家が好きだったんですね。
そのせいで、ほかの人と絵柄や趣味が違うことに悶々として、ある種のコンプレックスのようなものを持っていました。でも4年生のころに、あ、これは昭和のマンガとか自分が好きなものを受けてできた感性なんだと気がついて。「手塚先生は亡くなっている」「昭和のマンガは過去のものだ」ってことに気がついたのもそのころです。この個性をもっと大事にしよう、自分の昭和の画風を未来に持って行こうと前向きな気持ちが芽生え、それから毎日描き続けてきました。

――小4にして昭和の絵を受け継ぐ決意をしたんですね。そこからマンガ家になるためにどうされたのでしょうか。
私は小・中学校しか行ってないんです。学校が嫌いだったのと、個性を大事にしたかったので行く意味が見出せなかったんです。中学を出るときに親に「独学で絵を勉強したいのでアルバイトしながら生きます、高校には行きません」と言ったら、父も「いいよ、そうしなさい」と。家族にちょっとお金を渡しながら暮らして、ずっと絵を勉強してきました。

――独学! 手塚先生以外に手本にしていたマンガ家は?
動物の絵に関しては高橋よしひろ先生。昭和のマンガばかりの中、平成以降に描かれた作品もかき集めて読むほど好きで、特に『白い戦士ヤマト』が大好きです。基本的に動物の絵は、高橋先生の犬や手塚先生の動物を模写していて、それが自分の中での基礎になっています。
人物だと、ちばてつや先生の初期の絵柄に影響受けています。ちば先生は少女マンガ誌出身ということもあり、『あしたのジョー』前半部や『ハリスの旋風』といった初期作品だと人物がすごく丸っこくてかわいいんですよ。あのタッチがすごく好きだったんです。気がついたらずっと毎日描いていて、描くことがアイデンティティで、生きがいで。描かないとなんで自分が生きているんだろうって深刻なうつ状態になってきてしまいます。


――Twitterで反響を得たとき、どんな気持ちでしたか?
たくさんリツイートされたときは「よっしゃ!」って、ガッツポーズして飛び上がりました。過去のものになってしまった昭和のマンガを受け継ごうという気持ちと同時に、自分以外のみんなも昭和の画風を現代に持ってきて欲しいと思っているんじゃないか、なんて自信もすごくあったんです。

――伝わった?
伝わった。自分の思っていること、願い、愛するものを、みんなも愛してくれているんやって気分が高ぶって。家から飛び降りたい気分でしたね(笑)

――飛び降りちゃダメ!(笑)
イエーイ!ってダイブしたい気分でした(笑)

――反響を受けて、ナナロク社から単行本発売が決定しました(本記事掲載の1Pマンガもすべて収録)。今後もTwitterでの発表は続けていきますか?
はい。タイムラインでどんどん流れていく1Pマンガを生活の一部として読んでいただくスタイルは続けていきたいんです。単行本は「そういえばあの日のタイムラインでこのマンガを見たな」って思い出、アルバムのように読んでもらえれば嬉しいです。

■読者と一緒に考える

――1Pマンガには、人間に恋をした飼い猫の話など、こじれた恋愛がよく出てきます。
普通の恋愛でも友情でも、相手の愛情をうまく扱えないっていうコンプレックスが自分自身にあったんです。マンガではそんなコンプレックスを抱えた自分の経験や気持ちをストレートに描いている側面が強いかなと。
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――愛情がうまく扱えないというのは、例えばどんなことでしょうか?
小学校のころは友だちに「遊ぼう」って誘われてもどうしても恐くて前に踏み出せなくて。遊びにいったりおしゃれを楽しんだり、普通の生活をしている人たちに対して「なぜこんなことができるんだろう」と別の生き物のように感じていたんです。自分は劣っているというか、たぶん人間じゃないんだっていうぐらいに昔は思っていました。そのため動物たちと遊ぶことのほうが多くて、マンガに動物が登場するのもその経験からきています。
個展には原画が9枚飾られていた

個展には原画が9枚飾られていた


――全体的に自分をモチーフにしたマンガが多い?
どちらかの主人公が自分だったりと、自己投影したものが多いです。

――作者自身を題材にしているはずなのに、いろんな読者が共感できる寓話的ストーリーになっているのが史群マンガの魅力だと思います。明確にメッセージが描かれていないため、自分を重ねやすい。
1Pマンガに関しては、読者と一緒に考えるというこだわりがあります。私自身のテーマをはっきり描くのではなく、読者の方が自身の経験から作品を解釈して、自分の経験や感情を呼び起こして欲しいんです。

――読者に解釈をゆだねる上で心がけていることは?
実は描くとき、セリフを削る作業に一番時間がかかっています。自分で写植を入れるとき、4行のセリフを2行にとか、すごく削るんです。言葉も絵も全部シンプルにしていって、読者の方が解釈できる距離感を作るようにしています。

――自らのコンプレックスをテーマにしながらも、最後はとにかく読者にゆだねるんですね。
読者の方の想像力は強いもので、大事なものだと思っています。いろんなマンガを読んで、私自身が想像するのが大好きだったんですよ。この主人公のこういう行動は、人間のこういう感情を表しているんじゃないかとか解釈を楽しんでいる部分があったので。それを読者にも楽しんで欲しいと思っています。

■明るいものと暗いものの両義性

――マンガ以外に影響を受けたものってありますか?
私は音楽ですね。

――さきほどもマンガが音楽に近いと。好きなアーティストは。
谷山浩子さんが大好きなんです。70・80年代から活躍されている女性シンガーソングライター。小学校に入る前から母の影響で聴いてます。

――こっちも昭和!(笑)
すっごいファンで(笑)ものすごく甘々でかわいい!っていう作品もあったら、ダークな作品も多い。明るいのと暗いもののバランスが強烈にいいんですよね。例えば好きなのは、「恋するニワトリ」。ポップな曲調なのに、歌詞は生身のニワトリが風見鶏に恋をするっていう、切ない・叶わない恋がテーマになっているんですよ。

――昔からポップさと同時に陰りもあるものが好きだったんですか?
基本的に明るい、かわいいものが好きって性格だったんです。ただそれが昭和のものと、周囲とずれていたのでコンプレックスとして受け止めて以降、暗い気持ちも入ってきた。それでも相手より劣っているという暗い感情だけじゃなく、それを個性だと前向きに受け止めていたところもあったんです。自分が1つのものを愛し続けた結果の仕方ない個性。強いコンプレックスだったと同時に誇りでもあった。だから今の作品にも、絵柄にポップな感じが出てくるのかもしれません。
ライブペインティングした壁一面の巨大クレパス画。一見グロテスクだがよく見ると、星がキラキラと散りばめられている

ライブペインティングした壁一面の巨大クレパス画。一見グロテスクだがよく見ると、星がキラキラと散りばめられている

マンガには収まりきれないほど喜怒哀楽が激しくなったとき、筆をクレパス画に変えて感情をぶつけるという。どのクレパス画にもあるのはフクロウの目。「フクロウをモチーフにしているのは最近。あんなに眼力が大きくて恐いのに、かわいいしふわふわ。ポップと怖さが交じり合った生き物で、ほんとに大好きですね」(史群さん)

マンガには収まりきれないほど喜怒哀楽が激しくなったとき、筆をクレパス画に変えて感情をぶつけるという。どのクレパス画にもあるのはフクロウの目。「フクロウをモチーフにしているのは最近。あんなに眼力が大きくて恐いのに、かわいいしふわふわ。ポップと怖さが交じり合った生き物で、ほんとに大好きですね」(史群さん)


――明るいものと暗いものの両義性が、一貫したテーマなんですね。
はい。明るいものだけでは「ずっとこの幸せが続くとはわからない」という不安、逆にすべて暴力だけ、暗いだけという作品は「人の生命や幸せをなめているんじゃないか」と、これもまた共感できない。やっぱり最終的にはみんな幸せでありたい。みんな幸せで平和になってほしい、最後は絶対そこにたどり着くんです。

――幸せになって欲しいのに、救われない愛情を描くのですか?
幸せになりたくても、現実ではそうもいかない。自身のコンプレックスとか、置かれてる状況とか。自分の中にも幸せになれない切なさがあって、マンガではそれをどうしても表現してしまいます。「君だけじゃなくてみんなこうなんだよ、独りで悩んでいるんじゃないよ」とメッセージも込めているんです。
嬉しいことに、個展に来てくれた方から「若者を許してくれるマンガだ」という感想をいただきました。Twitterでも「自分が許されたような気がする」という声がすごく多くて。悩んでいるのはあなただけじゃないという気持ちとともに、切なさを抱えた人を引き上げていけたらいいなと思います。今日はたくさん語りましたがまだまだ未熟。一人前のマンガを描けるようにこれからもがんばりたいです。


[執筆=黒木貴啓(マンガナイト)]

【原画展概要】
会場:begining of the end
〒160-0022 東京都新宿区新宿4-4-10アパートメントホテル新宿 地下1階

日程:2014年5月26日~31日

【関連リンク】
■史群アル仙 Twitterアカウント(https://twitter.com/shimure_arusen
■史群アル仙 公式サイト(http://arusen.ryugu7.jp/
■begining of the end(http://xxxendxxx.com/
■ナナロク社(http://www.nanarokusha.com/

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