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  • CM_キャラポス_モルデカイ[1]ジョニー・デップ主演最新作『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』が2015年2月6日(金)より全国公開。
    公開に先駆けて、都内某所でジョニー・デップの来日記者会見が行われる事になり、MangaStyle編集部は映画通の漫画家・巻来功士先生と、タレントの中島友紀さん、若松由莉さんと共に会見の様子をレポートするべく会場へ向かいました。
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    ジョニー・デップの来日は、2013年7月『ローン・レンジャー』以来1年6ヶ月ぶり11度目。

    本作でデップが扮するのは、超ナルシストで、いかにもインチキくさいセレブの“ちょびヒゲ美術商(アートディーラー)”。
    ご自慢のうんちくと“ちょびヒゲ”、そして持前の強運を武器に、伝説の財宝の謎を追い求めて、イギリス・アメリカ・ロシア・香港へと大冒険を繰り広げます。真骨頂とも言える特殊メイク(?)の愛くるしい“ちょびヒゲ”を携えた、海賊、お菓子屋、帽子屋、ヴァンパイアにも勝るとも劣らない最高に魅力的な新キャラクター。

    主演のジョニー・デップは脚本を受け取るよりも前に、原作を読んで惚れ込んでいたというほど。共演には、『アイアンマン』シリーズのグウィネス・パルトロー、『スター・ウォーズ』シリーズのユアン・マクレガー、『マジック・マイク』のオリヴィア・マン、『ダ・ヴィンチ・コード』のポール・ベタニー他、実力派俳優陣が集結。ひと癖もふた癖もあるキャラクターを演じます。

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    会見を楽しみにしていたスタッフ面々・・。
    しかし、残念ながら当日の会見はジョニー・デップの体調不良でキャンセルに、残念ながらジョニー・デップを目のあたりにする事は叶いませんでした。世界的スターのジョニー・デップ、体調の回復をお祈りします。

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    デップに会えずに残念がる中島友紀さん(左)と若松由莉さん(右)

    映画は2月6日(金)より全国超拡大ロードショー! スクリーンの中のジョニー・デップに逢いに行きましょう!

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    『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』

    ■原題・英題
    MORTDECAI

    ■公開日
    2015年2月6日

    ■公開情報
    2015年2月6日(金) 全国超拡大ロードショー

    <STORY>
    名画の謎解きは、“ちょびヒゲ”美術商に託された!?
    イギリス・オックスフォードで、ゴヤの幻の名画が何者かに盗まれた。英国諜報機関MI5が捜査を依頼したのは、“ちょびヒゲ”がトレードマークのインチキ美術商チャーリー・モルデカイ(ジョニー・デップ)。モルデカイは、最強の用心棒ジョック(ポール・ベタニー)と共に、名画を追って華麗なる大冒険へ。
    しかし、その名画には世界を揺るがす財宝の秘密が隠されていた!いつしかアメリカの大富豪にロシアン・マフィア、国際テロリストに警察を巻き込み、数々の危機にさらされながら世界中を駆けめぐる争奪戦が勃発!
    果たして、モルデカイは財宝にたどり着くことができるのか?幻の名画の行方は―!?財宝の謎が隠された“幻の名画”をめぐる、痛快アクション・アドベンチャー!

    監督:デヴィッド・コープ
    脚本:エリック・アロンソン
    原作:チャーリー・モルデカイ1 英国紳士の名画大作戦 著/キリル・ボンフィリオリ 著/三角和代(角川文庫刊)

    キャスト:ジョニー・デップ、グウィネス・パルトロー、ユアン・マクレガー、オリヴィア・マン、ジェフ・ゴールドブラム、

     オフィシャルサイト:http://www.mortdecai.jp
    配給:KADOKAWA

    [執筆・撮影 木瀬谷カチエ]

  • ©2014 Jiangsu Omnijoi Movie Co., Ltd. / Boneyard Entertainment China (BEC) Ltd. (Hong Kong). All rights reserved.

    ©2014 Jiangsu Omnijoi Movie Co., Ltd. / Boneyard Entertainment China (BEC) Ltd. (Hong Kong). All rights reserved.

    映画好きで知られる漫画家・巻来功士。
    巻来功士が最新の映画を観賞し、心臓がピクピクするほど感動及び興奮、または憤慨?した作品”心ぴく映画”を紹介するのが 『功士の心ぴく映画コラム』です。

    連載第二回目の作品は、第64回ベルリン国際映画祭にて金熊賞と銀熊賞の2冠に輝いたミステリー作品 『薄氷の殺人』 。1月10日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで絶賛上映中の作品です。話題の作品を観た巻来功士の心ぴく度は?

    [あらすじ]

    1999年の夏、中国の華北地方で起こった連続猟奇殺人。捜査に駆り出された刑事ジャンは、有力な容疑者を拘束したが、思わぬ銃撃戦で容疑者が死亡し事件は迷宮入り。ジャンも被弾して警察を辞した。そして2004年の冬。
    妻にも捨てられ自暴自棄となり、しがない警備員として生計を立てていたジャンは、元同僚から5年前の事件と酷似する猟奇殺人が起きたことを聞き、独自の捜査に乗り出す。奇妙なことに、被害者たちは殺される直前、どちらも5年前の被害者の若く美しい未亡人ウーと親密な仲だった。それは単なる偶然なのか、それともウーは男を破滅に導く悪女なのか。そしてジャンもまた、はからずも“疑惑の女”に心を奪われていく……。

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    第2回「功士の心ぴく(心臓ぴくぴく)映画コラム」は『薄氷の殺人』。
    社会派ミステリー&サスペンス映画です。

    中国の華北地方で起きたバラバラ殺人事件を、ある銃撃事件の為に警察を退職した元刑事が追ってゆくというストーリー。
    背景に描かれる中国社会の今が、リアルに描かれていてとても面白いです。
    まるで、高度経済成長期(60~70年代)の日本そのものに見えて、懐かしくもありました。見ている最中、当時の日本の天才監督、今村昌平の映画を思い出して嬉しくてニヤニヤしまったのも事実です。

    ただ違うのは、当時の日本は声を上げるなどの行動を起こせば、未来は明るくなるという希望がありました。
    しかし、今の中国は(日本も同じですが)、揺るぎようもない格差社会の中、諦めの感情が支配しているように感じました。その世情をあからさまに描かく事によってノワール(暗黒)感を際立たせて、素晴らしい映画的世界観を構築する事に成功しています。

    主人公の元刑事役、リャオ・ファンの面構えが抜群です。そして、情を交わすようになる被害者の妻役グイ・ルンメイの氷のように冷たい顔が、徐々に人間味を取り戻してゆき、ラストに向けて、美しい女の顔に変わってゆく過程も大きな見所です。そして、観覧車のシーン、絶品です。ラストも大きな余韻を残し、傑作の面目躍如です。

    私は、鑑賞後にどれだけ心に残るか、思い出して心(心臓)がザワツクかを、映画の善し悪しの基準にしています。そういう意味でもこの映画は傑作です。
    後に残る余韻、特に切なさが身にしみる名作です。是非ご覧ください。超お薦めです。

    『薄氷の殺人』心ぴく度、95点です!


    【作品情報 】

    タ イ ト ル : 『薄氷の殺人』 原題:白日焔火
    監督・脚本 : ディアオ・イーナン
    出 演 : リャオ・ファン『戦場のレクイエム』 / グイ・ルンメイ『藍色夏恋』 /
    ワン・シュエピン『サイレント・ウォー』
    製 作 年 : 2014年
    製 作 国 : 中国・香港
    上 映 時 間 : 109分

    新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開中!

    [巻来功士】

    1958年長崎県佐世保市生まれ。1981年、「少年キング」誌で『ジローハリケーン』でデビュー。 「週刊少年ジャンプ」に発表の舞台を移し、代表作『ゴッドサイダー』を執筆。その後、青年誌を中心に『ザ・グリーンアイズ』『瑠璃子女王の華麗なる日々』『ゴッドサイダーサーガ神魔三国志』など数々の作品を連載。 クラウドファウンディング「FUNDIY」にて『ゴッドサイダー・ニューワールド(新世界)〜 ベルゼバブの憂鬱 〜』の制作 プロジェクトを成功させて現在鋭意執筆中。

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    ※『功士の心ぴく映画コラム』では皆様からの巻来先生に観て欲しい映画のリクエストをお問い合わせフォーム
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  • 映画好きで知られる漫画家・巻来功士。
    「ゴッドサイダー」「メタルK」等週刊少年ジャンプ誌上にて幾多の代表作を生み出してきた彼の仕事場には、これまでに観た数々映画のパンフレットが山のように積まれています。 その巻来功士が最新の映画を観賞し、心臓がピクピクするほど感動及び興奮、または憤慨?した作品”心ぴく映画”を紹介するのが 『功士の心ぴく映画コラム』です。

    記念すべき連載第一回目の作品は現在絶賛上映中のディズニー最新作「ベイマックス」。2014年12月20日の公開日以降大ヒットを記録。 興行通信社が5日に発表した調べによると公開3週目に入った『ベイマックス』は新年最初の1位を獲得、 『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』から首位を奪取し、累計成績は動員326万2,260人、興収41億4,533万9,200円を突破しています。

    果たして、今年初めの話題作を観た巻来功士の心ぴく度は?


    巻来功士版「ベイマックス」?

    巻来功士版「ベイマックス」?

    第一回「ベイマックス」

    全編、ベタすぎるほどベタな展開の、ハリウッド王道ヒーロー映画。しかし、とにかく面白い

    日本版のCMを見て行かれた人は驚かれるとは思いますが、セリフの巧みさと、随所に散りばめられたギャグで、ガッチリ心を掴まれた後に始まる怒濤のアクションシーンの見事さは溜息ものです。

    ディズニー映画なので、癒し系の物語かと思ったら、なんと原作がマーベルコミックなので、「アベンジャーズ」とリンクしているのじゃないかと思えるほど、濃い登場人物の数々は男子心を湧き立たせる事請け合いで、その結果訪れる(ベタな)大感動の結末は、感涙必死です。私も、涙を堪えるのに苦労しました。

    しかし、こんな「友情」「努力」「勝利」の完成されたアニメ作品がアメリカで制作されるとは・・。正直複雑は気持ちです。「友情、努力、勝利」と言えば某、鉄板少年誌で何度も繰り返されるテーマではないですか!それをもう40年続けている我が国が、なぜ、最も得意とするロボットアニメで、全世界の子供の心を、後発のアメリカ映画にガッチリ掴まれてしまうのか!?まったく解せません!・・・といって思いつく事といえば、アメリカ人監督の日本の漫画・アニメに対するリスペクトです。その力が我が国の業界には少し足りないのでは・・。そうでなければ、天才手塚治虫が作りだした傑作漫画の数々や、それを受け継いだ天才漫画家達の原作を忠実に再現した作品のお陰で、すでに漫画・アニメのマーケットはトヨタなどを抜いて、日本が世界最大のものになっているはずなのですから。

    そう考えるのは私だけでしょうか?見ていてそんな悔しさまで覚えてしまう、大傑作ロボットヒーローアニメです。是非ハンカチを用意してご覧ください。超お薦めです!!

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    (100ぴく中)

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     1958年長崎県佐世保市生まれ。1981年、「少年キング」誌で『ジローハリケーン』でデビュー。 「週刊少年ジャンプ」に発表の舞台を移し、代表作『ゴッドサイダー』を執筆。その後、青年誌を中心に『ザ・グリーンアイズ』『瑠璃子女王の華麗なる日々』『ゴッドサイダーサーガ神魔三国志』など数々の作品を連載。 クラウドファウンディング「FUNDIY」にて『ゴッドサイダー・ニューワールド(新世界)〜 ベルゼバブの憂鬱 〜』の制作 プロジェクトを成功させて現在鋭意執筆中。 TWITTER FACEBOOK 巻来功士の漫画(マンガ)コミックはまんが王国で配信中!

    <巻来功士>

    1958年長崎県佐世保市生まれ。1981年、「少年キング」誌で『ジローハリケーン』でデビュー。 「週刊少年ジャンプ」に発表の舞台を移し、代表作『ゴッドサイダー』を執筆。その後、青年誌を中心に『ザ・グリーンアイズ』『瑠璃子女王の華麗なる日々』『ゴッドサイダーサーガ神魔三国志』など数々の作品を連載。 クラウドファウンディング「FUNDIY」にて『ゴッドサイダー・ニューワールド(新世界)〜 ベルゼバブの憂鬱 〜』の制作 プロジェクトを成功させて現在鋭意執筆中。

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    <作品情報>

    最先端の技術が集う都市サンフランソウキョウに暮らす14歳の天才少年ヒロ。大切な人を失ったヒロと、心優しいケア・ロボットのベイマックス。西洋と東洋が融合すしたような架空の街サンフランソウキョウで繰り広げられるふたりの出会いと冒険の物語。

    『ベイマックス』公式サイト 

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    『手塚治虫の美女画展』×『MangaStyle』特別対談シリーズの第三回目。

    手塚るみ子さんをホストに、毎回漫画家をゲストに迎える対談シリーズの最終回にお越しいただいたのは『すすめ!!パイレーツ』『ストップ!!ひばりくん!』等のギャグ漫画の歴史に名を刻む作品の作者でありつつ、美少女を描くイラストレーターの先駆者でもある江口寿史さん。
    1995年には責任編集を務められた『COMIC CUE』で『手塚治虫REMIX』号も発刊。
    初対談となるお二人の手塚治虫作品についての対話が始まります。


    僕も今絵の具を買おうかなと思っているんです

    手塚) 今回開催されます「手塚治虫の美女画展」に先駆けて、9月に「手塚治虫美女画集 ロマネスク」(復刊ドットコム; 増補新装版)が発売になったんですが、この画集は手塚の女性キャラクターばかりを収録していて、前半が少女マンガからで、後半が大人向けの作品からになっていて、あと珍しいイラストなども多数掲載されています。

    江口) (「手塚治虫美女画集「ロマネスク」を見ながら)綺麗ですねー!先日、ちばてつや先生の「あしたのジョー、の時代展」を見にいったんですが、カラー原稿がすごく綺麗で驚きました。手塚先生もそうですけど、この時代の漫画家さんはカラー原稿を絵の具で彩色されてますよね。

    手塚) 絵具とパステルですね。でも本にしてしまうと若干色が変わってしまうんですよ。原画と見比べるとその違いがわかります。印刷によって色の出方が違うので。

    江口) ですよね…。デジタルと比べてアナログは印刷によっても再現の差が大きいですよね。印刷現場の職人さんのセンスや経験、技術に負う所も大きい。でもこの時代の漫画家さんは原画の”強さ”が全然違いますね。僕もそれを再認識しちゃって、今また水彩絵の具を買おうかなと思っているんですよ。(笑)手塚先生は彩色もご自分でされてらしたんですか?

    手塚) そうですね。本編のカラーページは多少アシスタントが彩色しているかもしれないですけれど、イラストや扉絵などは全て自分で彩色していますね。

    江口) タイトルロゴのもデザインも全部ご自分でされているんですよね。今見返してもそれぞれの作品に合ってるものばかりだし、凝ってますよね。

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    手塚) 「手塚治虫の美女画展」では複製原画は販売しようと思っています。江口先生が以前「リベストギャラリー創」で個展を開催されてた時に原画販売をしていらして、「原画を売っちゃうんだ」と驚きました。

    江口) 売ってたのはほとんどカラートーンの原画なんですよ。カラートーンは時間が経つと擦れて退色してきたりとか、気泡がはいって浮いてきたりマジックの主線が滲んできたりしてしまうんです。ファイルには入れてますが重ねて倉庫に入れてると湿気とかでどうしてもね。最適な環境で保存しておくのが個人ではどうしても限界あって…。だったら常に出しておいてくれる方に持っててもらったほうがいいかなと思いまして。画材としてもカラートーンは今後はあまり使わないと思いますので。手放してしまった絵はもちろんデータ化して保存していますが。

    手塚) 畑中純さんの個展でも貴重な原画を売ってて、でもご家族の方が「ファンの方に持っててもらった方が大切にしてもらえるので」とおっしゃってました。確かに原画の価値は家族にはあまり実感がなくて。うちもそうしたほうがいいのかななんて思ったりもしてます。

    江口) 僕のと違って手塚先生の絵は国の宝ですから、あちこちにバラけさせないほうがいいと思いますよ。(笑)

    手塚) 膨大な量ですからね。国が保管してくれれば助かるのですが。遺族としてもプロダクションとしても管理も大変なんです。それに加えて財産的価値といったもので、税金が掛かるという問題もありまして。孫の代になっていくと、価値もわからずただ負担になっていくといった事にもなりかねません。


    手塚治虫×江口寿史・夢のコラボレーション

    江口) 「MangaStyle」の”手塚作品トリビュートイラストギャラリー”を見てると僕も描きたくなって来ますね。うずうずしてきますよ。…『ばるぼら』はまだ描かれている方いないですよね。

    手塚) 展示も『ばるぼら』はないんですよ。

    江口) 今日もここに来る前に読み返しながら来ました。ばるぼらは美人では無いんですけどたまに見せる色気が可愛いと思います。わりとグラマーでエロい身体がうす汚れて臭い服に包まれてるというのがまた…萌え所というか。(笑)

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    『ばるぼら』

    -印象に残っているキャラクターは『奇子』や『ばるぼら』のキャラクターでしょうか?

    江口) やはり『奇子』が印象的で、何度も繰り返し読みました。

    手塚先生って、子供から成長して大人になる女性の描写がすごく執拗でエロいんですよね。『ふしぎなメルモ』の時も感じましたけど、ドキドキしながら読んでました。

    手塚) 『奇子』はまさに幼い頃から、成長過程を追っていく感じですからね。

    江口) 限られた空間で、お兄さんと二人っきりという状況設定にも惹かれました。

    僕は19歳くらいの時に、自分の中で手塚治虫再評価の時期がありまして。もちろん漫画の目覚めは『鉄腕アトム』なんですけれど、始まりはアニメの方で。小学2年生だったと思いますが、それはそれは夢中になって。それでアトムが掲載されている『少年』という雑誌を読むようになり、漫画を知り、漫画に親しんでいったんです。
    でも僕が漫画としての手塚作品を読み始めた時には手塚先生は既にベテランで、…それでも実際にはまだ30代くらいでお若かったと思うんですが(笑)…自分にとっては巨匠に見えました。音楽でいうとビートルズみたいな感じでしょうか。手塚先生よりもっと若いちばてつやさん、赤塚不二夫さんらに比べると古典の様に感じてしまって、どちらかというと興味は手塚先生より下の世代の漫画家たちの作品の方に向いていました。

    漫画家になろうと決心した19歳の時に『ブラック・ジャック』で手塚先生が再ブレイク的なブームになってて。『ブラック・ジャック』の面白さに本当にビックリして。よく週刊連載の毎回読切りでここまで面白いのが描けるなと。「なんだこの人は!?」と。そこでようやく、仮にも漫画家になろうってんだったらきちんと手塚治虫を読んでいないのはやはりマズいだろうと思いまして。それで、大都社版のコミックスでかたっぱしから読んでいったんです。
    手塚先生は『鉄腕アトム』だけの人じゃなく『奇子』の様なダークなものも描いているし、アンモラルな作品も多い。そのふり幅の広さに驚いたのが、19歳の頃だったんです。巨匠といえど、その地位に納まっている作家ではないなと感じました。内容もどんどん変わっていくし、晩年にいたるまで絵柄も変化していますからね。巨匠になると自分で描かない人も居る中で手塚先生は明らかに自分で描いているのが読んでいてわかります。子供の頃に手塚先生に感じた「巨匠」とか「古典」とかいった印象はまったく間違っていました。

    子供の頃に『少年ブック』に『手塚治虫のまんが専科』という、手塚先生が描いた付録冊子が付いていまして、僕はそれを大事に持ってたんですけど、実際にペンで漫画を描き始めた時には、それを引っぱり出して参考書にしてカケアミとかを練習してましたよ。

    手塚) 江口さんはデビュー後に、実際に手塚と会う機会があったのではないですか?

    江口) もちろん集英社の”手塚賞・赤塚賞”のパーティーで何度か度お見かけしてはいましたが、恐れ多くていつも遠くから離れて見てました。(笑)

    でも一度、勇気を振り絞って新人五人くらいで揃ってサイン貰いにいったんですよ。そうしたら手塚先生が「君達ももうプロなんだから、プロがプロにサインもらうのはよくないな。それは恥ずかしいこと」とニコニコしながら言われまして。そう言いながらも色紙には『ブラック・ジャック』を描いてくれたんですけれど。『ブラック・ジャック』は髪の左側が黒いデザインじゃないですか。作画で黒く塗るところに(アシスタントさん向けに描くように)ベタの指定のバツを描いて、「後は自分で塗ってね」と言ってサインを渡されたんです。僕はそれを見て「かっこいい!」と思いました。その色紙は一緒に話しかけたうちの他の誰かが持っていったんですけれど・・。僕も握手はしてもらいました。

    そういう体験があったから、僕は未だに自分から同業者にサインを下さいとあんまり言いません。ただ、ちばてつや先生にはもらいましたけどね。手塚先生とちば先生は僕にとっての二大神様なので。(笑)なので、結果的に今でも僕は手塚先生のサインは持ってないんですよ。

    手塚) 江口さんがベタ塗っていたら、手塚との夢のコラボ作品になっていたのに。(笑)

    江口) ミュージシャンの佐野元春さんも、以前対談した時に話してくれたんですが、手塚先生が大好きで子供の頃に手塚プロにサインを貰いに行った事があるそうなんです。描いてもらった色紙は白黒で描いてあったらしくって、見てたらカラーにしたくて自分の絵の具で彩色したら、サインの主線が墨で描いてあったらしく絵がとけちゃったらしいんです。(笑)「僕はすごい悲しい思いをしたんだ」って。(笑)

    手塚) 佐野さんは子供の頃からよくアトムを描いていて、元絵を見ないでも覚えてて絵が描けるんですよ。思い入れがありすぎて「僕もアトムみたいに飛べるんだ」といって、二階から飛び降りたこともあるらしいです。(笑)

    江口) 彼らしいですね。(笑) でもそうやって実際に先生を訪ねて行けるというエピソードが東京の子供ならではですよね。僕は九州・熊本県のさらに片田舎だったので直接会おうなんて発想すら全然ありませんでした。雲の上の人ですからね。

    手塚) 生きてれば、いくらでも接点はあったと思いますが。

    江口) 手塚先生とお会いした時には意外に身長が高く感じましたね。似顔絵とかでは御自身をディフォルメして小さく描いているじゃないですか。

    手塚) 175㎝以上はあったと思います。顔が小さいので背が高くみられますね。でも漫画の中の自分を描く時は若い頃の華奢なイメージで描いているので、そのイメージで小さく思われてしまうようですね。

    でも出版社のパーティーとか色々な先生方と交流できる場で結構お会いしてるのかなと思っていましたけど。

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    『手塚治虫のまんが専科』


    原画に残る作家性

    江口) 藤子不二雄A先生とお話した時に、先生ご自身が「新人の漫画家達はあまり話しかけてこない」とおっしゃってました。新人は恐れ多くて、話しかけてこないみたいですね。僕らもそうだったし。「全然話しかけてくれればいいのにね」とおっしゃってましたね。
    僕らが新人の時はネットも無い時代ですから、漫画家の先生は謎に包まれた雲の上の人ですからね。今の人はわりと声かけられるんじゃないかな。ツイッターでも気軽に話かけられるしね。(笑)

    手塚) 手塚赤塚賞の会場では、新人の漫画家さんがここぞとばかりに色紙持ってこられて審査員の先生方に「頑張ります!サインください!」と話しかけている光景を見かけたりします。

    江口) 僕が新人の時にはとても声かけることはできなかったな。僕に対しては、今の新人たちはよく声かけてきますけどね。初対面にも関わらず「先ちゃん!」とか呼ばれたりしますよ。(笑)

    手塚) 30T[1]※ 等来場者やファンの方と直接会話出来るようなイベント企画をなさっているからでは?

    江口) 今年の夏まで30Tのイベントでは手渡しでTシャツを売るといったこともしてましたけどね。あれはどうかしてるイベントですよね。(笑)

    手塚) ファンにとっては、あんなに身近で先生方と触れ合える機会は無いので貴重です。

    江口) 30Tも4回と数を重ねて来て今年の夏でFINALだったのですが、その後もっと大きいキャパシティの会場でやりませんかとかいろいろお誘いはいただくんですけれど。あの場で、自分たちでやってこその30Tで。自分達でやらないとあのイベントの魅力が無くなってしまう。来場者の方はレジ打ちしているのがまさか出展している作家だとわかってないですよね。(笑)

    手塚) いしかわじゅん先生が会場でTシャツを畳んでいるのは可笑しかった。テレビでコメンテーターもされていて、社会的なコメントもされている先生なのにって。そのギャップが可笑しい。
    江口さんは『COMIC CUE』[2]※ を編集されていたり、昔からイベント好きですよね。プロデューサーのような印象を受けます。

    江口) イベント好きというか…、僕はそもそもミュージシャンに憧れていたので感覚としては音楽フェスを主宰する感じに近いですかね。『COMIC CUE』にしても好きな漫画家さんを集めて雑誌上でフェスをやるイメージで一冊作りたいと思ったんですよ。

    手塚) 『COMIC CUE』にはとても触発されました。いろいろな作家さんが手塚というテーマで描く。絵もそうですけれど、同じ漫画家の作品をカバーして自分なりの漫画を描くというところに凄く衝撃を受けて、その後手塚作品のトリビュートを企画するにあたっても参考になりました。原作に忠実に描く必要は無くて、壊してもいいんだと思いました。あといろいろな先生の見方が面白かったですね。喜国雅彦先生が、『アポロの歌』のカバーをなさって、この作品は喜国先生にとっては凄くトラウマを与えたものなんだというのがわかって、新しい解釈を与えられた気がしましたし。今回「手塚治虫の美女画展」で”手塚作品のエロス”というのを切り口に展示作品を選んだのも、ダークな部分に惹かれる人は絶対いるんだろうなという思いがあったからなんです。

    江口) 元々『COMIC CUE』は漫画の漫画によるカバーをやりたくて、やったところがあるんですよ。

    手塚) それぞれテーマがあって、みんなでどういうものを持ち寄ってくるかっていうのが、すごく面白かったです。

    江口) 漫画も産業として大きくなるにつれ、システム化していって漫画家さんもそれに慣れていったと思うんです。描いたものから片っ端にオートマチックに単行本になって、という。漫画が今よりずっと売れていた時代には単行本にするのにチェックすらしない先生も多かった。そこへいくと手塚先生は単行本になる前に原稿を修正しまくるじゃないですか。作品によってはラストが違っていたりするからファンにとって油断できないんですよ。メジャーな場にいながら精神は常にマイナーというか。オルタナティブであり続けた人ですよね。僕も版を重ねる事に作品に手を入れているんですよ。毎回良くなっているはずなんです。読む人の価値観も様々ですから変えないほうが良かったという人ももちろんいます。でも自分の満足度の方を優先しちゃうんですよね。「漫画の神様もそうしてたんだし」って言い訳にして。(笑)

    手塚) 単行本ごとに大幅な変更をしますからね。『奇子』はラストが2パターンあるらしいですよ。『マグマ大使』もある単行本ではこの巻で終わってるんですが、他の本ではその先が続いているんですよ。終わってなかったの?!って。雑誌の連載時には、やはり〆切もあるし、時間がないから、妥協して出してしまうこともあるんでしょうね。結構自分で”駄作”と言っているものも多いので。

    江口) そう言われている作品も手を入れて蘇ったりもしますよね。

    手塚) 今、生きてたらいろいろなものを直したいでしょうね。私としては、『プライムローズ』とか『ドン・ドラキュラ』とか手直ししてほしいですね。あの時期は少年向けで苦労していたので。腰をすえて手を加えたら、もっと深い作品になるような気がします。

    -江口先生から見た手塚先生の女性キャラの特徴はありますか?

    江口) 『奇子』や『ふしぎなメルモ』のメルモちゃん等に見られるお尻からの線。先生の描かれているものは肉感的ですよね。曲線を強調されていて、子供の頃に見ていてうずうずしていました。

    手塚) メルモちゃんだとテレビアニメですか?

    江口) アニメですね。変身するところとかエロティックですよね。リボンの騎士で男装していたりとか影響されましたね。男の格好をしてるけど実は女の子とか、手塚先生はそういう設定が好きじゃないですか。メジャーな場で隠さずに”エロス”を描いてきた人だなと思っていますよ。

    手塚) でも下品にならないですよね。生々しいシーンでも、局部とかを直接描いていないからソフティケートされているのかもしれないです。今回、複製原画にする時に難しかったのが乳首の色を出すことですね。原画と印刷したものとでは乳首の色が違うんですよ。手塚は微妙な薄い桃色だしているんですよ。それを濃いピンクにしてしまうと急に下品に見えてしまう。原画を見ると、乳首の色ひとつからも穢れを知らない純真さを感じさせるんですよね。エロティックなキャラクターでも、すごく清楚な存在に思える。女性の視点なんでしょうけれど。色ひとつで、下品にも上品にもなるんだなと気づかされました。

    江口) やはりそこには相当気を使っていらっしゃったんでしょうね。

    手塚) 印刷物になるとそれが分からないから、原画を見せる価値は、そういったところに意味があると思うんですね。実際に手塚がどういった色を出したか、その色に対する思いが伝わってくるんだと。私自身あまり原画とか見る機会ないんですけれど、凄く色々なことに気づかされましたね。

    江口) 原画は全然違いますからね。作家の人間性までがゴロっと出ますから。

    手塚) 生原稿だと何度も手直しした線があって。迷いに迷ってこのポーズにした、みたいな。『奇子』のこの立ちポーズも実は何度も描き直してる。

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    『奇子』


    今は手で塗りたいと思ってます

    江口) そういえば先日机の引き出しから未発表のデッサンとか下書きなどが見つかったと伺ったんですが?

    手塚) デッサンというか下描きですね。あと絵の参考になっているグラビアの切り抜きとか、他の先生が描いた女性の絵もあって。練習したりとか、どう見せるか熟考してたりとか。手塚は絵を専門的に学んだわけじゃなく独学で描いていましたから、色々なところから参考にしていたんだなと、そういう遍歴が見えるものがあります。江口先生も絵を描かれる時に彩色は気をつかわれてますよね。印刷された時の刷り上がりの色味を想定して描かれているんでしょうか?

    江口) 今はデジタルですから、例えば印刷した物にPP加工をすると色が濃くなるので、モニター上ではコントラストを弱めたりとか、そういう調整はしてますね。僕はCMYKの数値を1%刻みで色を作っているので、アナログよりも時間かかってます。しかもデジタルだと拡大出来るから、細かい所を修正しすぎてしまう。目視できない程小さいから誰もその修正箇所はわからないんですけどね。(笑)

    今は手で塗りたいと思ってます。ちばてつや先生の原画を見た時もそう思いましたし、今度手塚先生の絵を見てもそう思うでしょうね。今回展示される原画は3点ですか?

    手塚) はい。その3点は、複製ではなかなか出せない部分があるので、だったら原画で見てもらおうと思って選びました。例えば『人間昆虫記』の表紙はミツバチの写真をコラージュしているものなんですが、実物の写真の切り抜きを貼っているんです。今ならPCで合成できますが、そういったアナログな手作業がめずらしくて。これは印刷じゃあわからないので原画で見せようかなと思いました。もうひとつは、扇に直接描いている絵があって、これも珍しいので原画で見せたい。実はこの扇は失敗作で、完成品は誰かに差し上げたらしいです。

     

    => 新作漫画は江口寿史版『まんが道』

  • 113日(月・祝/手塚治虫生誕日、まんがの日)~119日(日)吉祥寺GALLERY KAIにて開催の『手塚治虫の美女画展』に合わせて手塚作品トリビュート・イラストギャラリー1130日迄期間限定で特別公開!期間中イラストは追加更新予定です!

    『手塚治虫の美女画展』×『MangaStyle』手塚作品トリビュート・イラストギャラリーは11月30日を持って公開終了いたしました。御寄稿下さいました先生方、手塚るみ子様、手塚プロダクション様、本企画にご協力戴きました皆様方、”手塚作品トリビュート・イラストギャラリー”をご覧いただきました沢山の皆様、誠に有難うございました。『手塚治虫の美女画展』特別対談企画は引き続きご覧いただけます。『MangaStyle』では次回も関連企画を検討中です、今後もお楽しみに。

    【『手塚治虫の美女画展』×『MangaStyle』手塚作品トリビュート・イラストギャラリーに御寄稿戴いた皆様】

    ■青木俊直 先生 『奇子』

    ■あいだ夏波 先生 『リボンの騎士』

    ■ARTJUNKIE 加藤 先生 『ブラック・ジャック』

    ■一本木蛮 先生 『ブラック・ジャック』

    ■一文字蛍 先生 『火の鳥 異形編』

    ■飯田 耕一郎 先生 『百物語』

    ■石原まこちん 先生 『ブッダ』

    ■羽海野チカ 先生 『ユニコ』(第18回手塚治虫文化賞受賞記念イラストから)

    ■梅木泰祐 先生 『リボンの騎士』

    ■歌麿 先生 『三つ目がとおる』

    ■江口寿史 先生 『ばるぼら』

    ■えびはら武司 先生 『鉄腕アトム』

    ■押山雄一 先生 『ふしぎなメルモ』

    ■御茶漬海苔 先生 『マグマ大使』

    ■桜多吾作 先生 『鉄腕アトム』

    ■柏木ハルコ 先生 『火の鳥 鳳凰編』

    ■上條淳士 先生 『ふしぎなメルモ』『奇子』

    ■桂正和 先生 『ふしぎなメルモ』

    ■河上ルイベ 先生 『三つ目がとおる』

    ■黄島点心 先生 『奇子』

    ■桐木憲一 先生 『I.L』

    ■九段そごう 先生 『リボンの騎士』

    ■黒谷宗史 先生 『どろろ』

    ■今野直樹 先生 『リボンの騎士』

    ■ゴトウマサフミ 先生 『ブラック・ジャック』

    ■小城徹也 先生 『三つ目がとおる』

    ■佐藤健太郎 先生 『ブラック・ジャック』

    ■佐佐木あつし 先生 『ジャングル大帝』

    ■史群アル仙 先生 『奇子』

    ■鮭夫 先生 『ブラック・ジャック』

    ■城谷間間 先生 『リボンの騎士』

    ■すたひろ 先生 『リボンの騎士』

    ■田中圭一 先生 『ロック』

    ■高田明美 先生 『鉄腕アトム』

    ■高遠るい 先生‏ 『火の鳥』

    ■高倉あつこ 先生 『ふしぎなメルモ』

    ■デビルロボッツ 先生 『ブラック・ジャック』

    ■にわのまこと 先生 『ふしぎなメルモ』

    ■のむらしんぼ 先生 『きりひと賛歌』

    ■平松伸二 先生 『リボンの騎士』

    ■樋口大輔 先生 『手塚ガールズ』

    ■ピョコタン 先生 『ブラック・ジャック』

    ■藤田和日郎 先生 『三つ目がとおる』

    ■古屋兎丸 先生 『奇子』

    ■ふなつかずき 先生 『ふしぎなメルモ』

    ■巻来功士 先生 『ライオンブック安達ヶ原』

    ■松井勝法 先生 『リボンの騎士』

    ■丸藤正道 選手 『リボンの騎士』

    ■三浦みつる 先生 『三つ目がとおる』 『ワンダー3』

    ■森田まさのり 先生 『三つ目がとおる』

    ■山田ゴロ 先生 『おれは猿飛だ』

    ■やぶのてんや 先生 『ジェッターマルス』

    ■ヤスコーン 先生 『ドン・ドラキュラ』

    ■山田雨月 先生 『奇子』

    ■山田雨月 先生 『ブラック・ジャック』 『ジャングル大帝』

    ■やまもとありさ 先生 『ブラック・ジャック』

    ■弓月光 先生 『リボンの騎士』

    ■横田守 先生 『プライムローズ』

    (手塚プロダクション公認企画)


    【関連リンク】
    ・『手塚治虫の美女画展』×『MangaStyle』 特別対談  vol.1″ヤマザキマリ×手塚るみ子”
    『手塚治虫の美女画展』×『MangaStyle』特別対談 vol.2 ″喜国雅彦&国樹由香×手塚るみ子”
    『手塚治虫の美女画展』×『MangaStyle』特別対談 vol.3 “江口寿史×手塚るみ子”

  • 対談表紙 喜国先生-国樹先生

    11月3日から9日迄、東京都吉祥寺「GALLERY KAI」にて開催される「手塚治虫の美女画展」。“手塚治虫作品のエロス”について焦点を当てたこの展示会と連動して行われる『手塚治虫の美女画展』×『MangaStyle』の特別対談の二回目のゲストは『傷だらけの天使たち』『月光の囁き』等ギャグからシリアスまで”エロ”を題材にした作品を代表作に持つ漫画家・喜国雅彦さんと、喜国夫人で同じく漫画家である国樹由香さんを迎えた鼎談形式。

    企画の発端は1999年イースト・プレス発刊の漫画雑誌『COMIC CUE volumeSIX 特集:手塚治虫REMIX』号にて、トリビュート作品として喜国さんが『アポロの歌』を、国樹さんが『手塚ワールドにおけるかわいいがいっぱい!』を寄稿、その掲載作品を見た手塚るみ子さんから是非作者のお二人に御話を伺いたいとの希望で鼎談が実現した。

    開始の前の何気無い雑談から、手塚さんと喜国さんの間にとある偶然が発覚!

    喜国) 昨日鼎談前にるみ子さんの経歴を見ていて驚いたのですが、るみ子さんが勤めていた会社で僕も同じ時期にアルバイトしていました。

    手塚) ええっ、本当ですか?

    喜国) 感慨深いです。その頃僕は手塚プロ出身の高見まこさんのところでアシスタントしながら持ち込みをしていました。そんなところで手塚先生と繋がっていたのかと感動しました。そういう想いも込めて今日はよろしくお願いします。

    -不思議な縁に導かれた様に3人の会話が始まっていった。


    “巧妙で危険”な手塚作品

    喜国) 僕は現在56歳になるんですが、アニメの『鉄腕アトム』がドンピシャ世代で、子供の頃はもちろん夢中になりました。 ショックだったのは最終回のアトムの死。でもそこをハッキリ描いていないから、幼かった僕には事情が判らない。「今のどうなったの?」って父親に聞いたら「地球を守るために死んだ」って言われて……。もうね、泣きまくりですよ。なんてひどい終わりなんだと。大好きだった手塚治虫がいっぺんで嫌いになりました。(笑) でもね、今にして思えば、あれはいい体験だったと思います。世の中いいことばかりじゃない。辛いこともある。子供心にそれを知ってしまったおかげで、その後の人生の苦しい場面を難なく乗り越えることが出来てますからね。(笑)

    漫画も読んでましたが、家が裕福ではなかったので、買ってもらえるのは誕生日とかの特別な日だけ。数冊だけ持っていた光文社のカッパコミックス版のアトムは宝物で、ボロボロになるまで読み返しました。そして、ある日気がついたんです。「アトムも自分で描けばタダだぞ」と。そこから僕の漫画家人生がスタートしたとも言えるわけです。ということで、今日から僕は堂々と”手塚チルドレン”を名乗りたいと思います。(笑)

    手塚) もともと一人遊びで絵を描き始めたんですね。

    喜国) 一人っ子で、近所に同じ年齢の友達が少なかったのが理由の一つ。もう一つはさっき言った貧乏。自分で描けばお金がかからない。紙と鉛筆があれば何時間でも夢中になれる。紙がない時は地面に木の枝で描いてました。昔は舗装道路じゃなかったですしね、…ってまるで戦後の話ですけど、当時の田舎はそんなもんでした。 今回のテーマである”セクシャル”にしても、目の前にあったのはウランちゃんだけ。まだセクシーの概念もありませんでしたが、ウランちゃんのパンチラには魅かれるものがありました。

    手塚) 現実にあんなスカート短くて、パンツが丸見えという事は無いですよね。

    喜国) 小学校4年生の時、少年ジャンプで『ハレンチ学園』が始まり、初めてエッチな気持ちで漫画を読むことになるんですが、意識下ではウランちゃんを始めとする手塚キャラでセクシャルの概念が出来ていたと思います。 例えばこのフィギュアはどうです? アトムが年上の女性からお尻にエネルギーを注入してもらってるんですが、これはM男的にはたまらないシチュエーションですよ。

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    手塚) このフィギュアを作った人もこのポーズには別の意味を持たせていますよね。(笑)

    喜国) アトムグッズを買っていたらキリがないので、なるべく手を出さないようにしてるんですが、これだけは僕が買わなきゃと思いまして。(笑) このシーンは漫画からとられているんですけど、読んでる当時はもちろんセクシャルだとは思ってないのですが、こうやって手塚先生には長い年月をかけて潜在意識にいろいろなものを植え付けられていたというわけです。

    手塚) アトムだからまだ品があるけれど。

    喜国) 巧妙で危険です。

    手塚) 国樹さんは?

    国樹) 子供の頃見たアニメが衝撃でした。その印象が強すぎて、私は『COMIC CUE手塚治虫REMIX』号に参加させていただいた時、『三つ目がとおる』のお風呂シーンを描いたんです。同級生の和登さんに体を洗ってもらう写楽くんというシチュエーションがエロすぎると。(笑) 手塚先生はかなりきわどい絵を描かれても上品で。そういうところも憧れます。

    喜国) 男の写楽くんより女の和登さんの方が大きいという対比はM心をくすぐります。

    手塚) お母さんと息子、お姉さんと弟っていう。

    国樹) そして、手塚先生の女性キャラクターは足先が小さいですよね。あれが凄いエロティックに見えて仕方なかったです。中国の纏足(てんそく)的なセクシーさというか。不安定さと可愛らしさの同居という感じでしょうか。

    手塚) 『COMIC CUE』の中で、国樹さんが”手塚作品の可愛いシーン”を沢山取り上げてくれて、あらためて手塚の描く可愛さを知ることが出来ましたね。

    国樹) 本当に「可愛いー!」って身悶えしながら読んでいました。『COMIC CUE』では自分絵で手塚先生キャラを描いてみたものの、全く太刀打ち出来なくて。元絵が可愛すぎるんです。人間も動物も愛くるしい。

    「らびちゃん」

    「らびちゃん」


    “トラウマ”の宝庫

    手塚) 喜国さんがあの『COMIC CUE』で『アポロの歌』をトリビュートで描いてくれたじゃないですか。それまであの漫画についてなんとも思っていなかったのですが、喜国さんの作品を読んで、「あっ! そういうことなんだ」というのを改めて感じました。それまで父親の作品をエロティックだとかセクシーだとか考えなかったのに、こういう見方もあるんだと気づかされたんですよ。

    喜国) 『アポロの歌』は僕と田中圭一くんの性癖を決定づけてくれました。あ、イカン。田中圭一の名前は絶対に出さないと決めていたのについ。(笑)

    手塚) お母さんがエッチしているシーンを見ちゃうというのは相当なトラウマになるんだろうなと思って。

    喜国) 1968年に『ハレンチ学園』が始まり「少年マガジン」では劇画が始まり、70年頃は少年漫画と青年漫画の垣根が曖昧になった時期で、手塚先生の『アポロの歌』も大いなるチャレンジでした。

    手塚) 『やけっぱちのマリア』あたりの時代ですよね。

    国樹) 男の人はこんなことを考えているのかと思いました。私は手塚先生の作品をリアルタイムでも読みましたが、後追いで読んだものが多いです。大人になっていたからこそ理解出来た作品も沢山ありますね。

    喜国) 由香ちゃんが僕のアシスタントだった頃、仕事場にあった手塚全集を片っ端から読んでました。最初の印税が入った時に、高田馬場の未来堂書店でまとめて300冊買ったヤツだったんですけどね。僕はじっくり時間をかけて読んでたのに、彼女はまとめてガーッて読むんです。「ああ、勿体ない。もっとゆっくり読みなさい! 違うっ、火の鳥はそうやって読むものじゃない!!」って注意するのですが、止まらなくて。(笑)

    国樹) 喜国さんが買ったのに私が先に読了してしまって。(笑)

    喜国) 僕なんか読む順番も考えてましたよ。『ブッダ』とか『火の鳥』とか大好きな作品はとっておいて、連載が中断した作品や短編集から読んでいくんですよ。

    手塚) 300冊が一気に自宅に届いたら、その読み甲斐といったら相当なものですものね。一日一冊読んでいったとしても300日はかかりますね。(笑)

    喜国) 一日一冊なんてもったいない。一日一話ずつ。(笑)

    国樹) 私は『ブラック・ジャック』も一日で全話読んでしまいましたね。昔読んだ作品ということもありましたが、全話分を一気読みしないと気がすまない性格で。特に手塚先生の作品は面白すぎるから、本当に止めどころが判らなかったです。

    喜国) ああ、己の身体に染み込んだ貧乏性が恨めしい。

    手塚) じっくり読んでる中から、特にエロに限っているわけではないのに『COMIC CUE手塚治虫REMIX』号で『アポロの歌』を選んだというのはなんでだったんですか?

    喜国) 『COMIC CUE』のあとがきにも書きましたが、手塚治虫は僕らに夢と希望を与えてくれたと同時に悲しみや絶望も示してくれました。最初に言った”アトムの死”のように。 僕にとっての手塚作品は、やはりそちらなんです、だから僕のトラウマに焦点を当ててみようかなと。

    手塚) 手塚ファンの中には、むしろそんなどろどろした気持ち悪くなるような作品を読んで心に引っかかった人もいると思うんですよ。

    喜国) トラウマといえば『マグマ大使』にもありました。ロケット姿のマグマ大使がガロンに殴られているシーンなんですが、内蔵が飛び散っているんです。「え、マグマ大使って、ロボットじゃなかったの?」ってビックリしてね。機械だと痛みは感じないんですけど、内臓は痛い。しかも連載ではその回はカラーで、内蔵がピンクで塗られているんですよ。で、そんなとこ見たくないのに、気がつくと開いてそこだけ読み返している。あれも今考えると、セクシャルな気持ちで見ていたのかもしれません。

    手塚) ロボットという鋼鉄なイメージのあるものから内臓的な血の通ったものが出るっていうギャップが凄いですよね。アトムもロボットなんだけど人間よりやわらかそうに見える。

    「マグマ大使 ブラックガロン編」

    「マグマ大使 ブラックガロン編」


    ”可愛い”の宝庫

    喜国) 今回のテーマ”美女画”に話を戻すと、『マコとルミとチイ』の母親がいいですね。美しい上にどんな危機的状況でも笑顔でいられる性格にグッときます。

    手塚) 喜国さんはマザコンではないですか?

    喜国) 違います。僕が好きなのはあくまでも”ママ”であって、四国にいる”オカン”ではありません。”実際のオカン”と”心の中のママ”は別物です。ここは大事なところですから、ハッキリ言っておきます。『マコとルミとチイ』のママは『バカボン』のママと合わせて、僕にとっての二大ママです。

    手塚) 凄いところを指してきましたね。(笑) でもこれが描かれたのは私が中学生くらいの頃で、長電話してたシーンとか当時の実際のエピソードが色々使われてますね。漫画のネタにしようとどこかで隠れて見ていたのか。単行本で読んだ時、どこで父は見てたんだ!? と思いましたね。 長電話の相手の男の子から告白されて「ええー、ウソー」みたいな場面とか。まさか父親が見ていたとは思っていなかったので驚きましたね。丁度中学の時でした。あと母が交通事故に合ったり、近所の工場が火事になったり、結構事実が入っているんです。

    喜国) 『マコとルミとチイ』ファンの僕としては、まさかこうやって”ルミ”ご本人と会えるとは思っていませんでした。

    国樹) 手塚先生が大人の女性キャラクターを描く時、モデルはいらしたのでしょうか。

    手塚) それはありますね。あれは母なんだと思っていましたけれど、どうもそうではなさそうなんです。少年時代のやさしかった母親の面影だったり、初恋が年上の女性だったようなのでそういった部分もあるかもしれないですね。

    喜国) 男子は先生のこと好きになったり、遠足でバスガイドさんのこと好きになったりしますからね。

    手塚) 後は宝塚歌劇を見て育ったので、宝塚のお姉さんたちの凛々しく麗しくという女性像が出来ている。スタイルも理想のスタイルになってますよね。父は凄いマザコンでしたから。 年をとると少年に戻っていくのかもしれませんね。 国樹さんは女性からみて手塚キャラのエロスをどこに感じていましたか?

    国樹) 繰り返しになりますが女性の足が小さいところ。纏足的だけれど悲壮なイメージはなくて、ただひたすら可愛らしいです。 リボンの騎士のサファイアは可愛くてパンク。当時はみんながサファイアに憧れましたよね。今見ても魅力が色褪せないのだから当然。

    手塚) アトムは足が大きいんですが、女性キャラを描くと確かに小さくなりますね。 だいたい22センチくらいですよね。足を小さく描かれると色っぽく感じるんでしょうか。

    国樹) 私が学園漫画を描くと手も足も大きめになってしまいます。男性キャラならありだけれど、ヒロインは足が小さいほうが断然セクシーで可愛いのではと。でも、自分では上手く表現出来ません。

    手塚) 言われてみると少女マンガの人物は足が小さいですよね。

    国樹) 手塚先生のデフォルメが大好きなんです。すごく漫画的に描かれているのに、不自然さが全然ない。

    手塚) 男性キャラは手足の先が大きいですよね。女性キャラは頭の大きさからするとバランスが小さい。

    「ふしぎなメルモ」

    「ふしぎなメルモ」

    手塚) デフォルメはご自身の作品の絵柄に影響はあるんでしょうか?

    国樹) 自分は初連載が犬漫画だったんです。いざ自分で描いてみて、手塚先生の描かれる動物の偉大さを再認識しました。

    手塚) 今回の美女画展のテーマはエロスですけれど、次にまた展覧会を企画するとしたら“可愛い”というテーマでやりたいというのは凄くあります。

    国樹) 是非! レオのちょっとしたしぐさなんて、悶絶ものの可愛さです。

    喜国) 今なら狙ってやるんでしょうけど、手塚先生の時代は狙ってないですからね。ストーリー上必要だから描いているだけですよね。

    手塚) この時代にはまだ“可愛い”という切り口はそんなになかったから。むしろ取り上げるなら今だなと思いましたね。

    国樹) 可愛い特集で本を一冊出していただきたいです!

    =>「影響を受けた」なんて恥ずかしくて言えない

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    11月3日から9日迄、東京都吉祥寺「GALLERY KAI」にて開催される「手塚治虫の美女画展」。“手塚治虫作品のエロス”について焦点を当てたこの展示会ではこれまであまり展示される機会の少なかった女性キャラクターたちの裸婦イラスト、原画・複製原画 17点を展示。初公開となる作品の展示も予定している。

    そこでMangaStyle編集部は、今回の展示会主催者であり、手塚治虫の長女である手塚るみ子さんと手塚治虫作品を愛する漫画家達との特別対談を企画した。対談場所は東京都豊島区雑司が谷にある並木ハウス別館内の「キアズマ珈琲」。

     対談の第一回目としてお迎えしたのは2012年(平成24年)に「テルマエ・ロマエ」で手塚治虫文化賞短編賞を受賞した漫画家のヤマザキマリさん。イタリアのフィレンツェにあるアカデミア美術学院で油絵と美術史を学び、1984年以来現在も日本とイタリアを往復しながら創作活動を続けているヤマザキさんと、手塚るみ子さんとの初対談。「手塚治虫の美女画展」に先駆けて9月に刊行された「ロマネスク―手塚治虫美女画集[増補新装版]」(復刊ドットコム:増補新装版)に収められている美麗な美女画の頁を繰りながら、自然と二人の会話が始まった。

    「キアズマ珈琲」外観。「並木ハウス」は、かつて手塚治虫がトキワ荘の後に仕事場として使っていた伝説のアパートであり、「並木ハウス別館」ははす向かいに位置する建物。近年、昔の面影を残したまま改装された。

    「キアズマ珈琲」外観。かつて手塚治虫がトキワ荘の後に仕事場として使っていた伝説のアパート「並木ハウス」のはす向かいに位置する「並木ハウス別館」内にある。

    対談のテーマは「手塚治虫作品のエロスについて」-

    手塚治虫の多面性

    ヤマザキ)子供の頃、児童漫画を読む視線で手塚作品を読んでいて、そこで出会う大人の女性の描写にはドキドキしました。手塚先生の世界感のふり幅の広さっていうのはやはり凄いですね。一般の人が手塚作品の登場人物としてイメージする純粋で健全な少女もあれば、エキセントリックで毒もあるような女性もあり。様々な女性像の描き分け操作をするのって、大変なことじゃないかと思うんです。

    手塚       そうですね。この読者に対してこれを描いていいものか考えて描かないといけないから。

    ヤマザキ) 混ざってしまったりはしないのですよね。

    手塚      アトムには毒は出ませんしね。

    ヤマザキ) 手塚先生の描く大人女性の世界感への導入口はブラック・ジャックではないかという気がしています。ブラック・ジャックの人間ドラマを通じて、大人の女性の複雑さやエロティシズムの片鱗を知るのではないかと。

    手塚      足の悪い少女に羽をつけて飛べるようにするって言う話があって、最後はその少女を鳥にしてしまうっていうめちゃくちゃな話なんですが。その鳥になっていく過程がそそられるっていう人もいるそうですよ。

    ヤマザキ) あれは面白いエピソードでしたね。動物愛っていうか、手塚先生は人間というものを他の動物と同じ様に、生き物として捉えて観察しているところがある様に感じます。鳥になってしまったり、植物になってしまうものもありますね。

    手塚      そうですね、奇病にして、最終的に鳥にしてしまうとか。

    ヤマザキ) 医学に独特の狂気が絡んでいるというか。ヨーロッパみたいな、キリスト教的倫理観が根付いている人ではありえない発想ですよね。むしろギリシャ、ローマの荒唐無稽な神話のような性質を感じさせられます。宗教的な倫理観に拘束されていない人々に可能な想像力。

    手塚      キリスト教の方はこんなの見れないですよね。

    ヤマザキ) ありえない。

    一生懸命参練習していた”女性の線

    ヤマザキ)手塚先生は女体を描かれるのが元々そんなに得意ではない、と何かに書いてあるのを読んだ記憶がありますが、実際そうだったのでしょうか?

    手塚      絵をデッサンから学んでるわけではないので、たぶん子供の頃からなんとなく模写することで覚えたんじゃないかと。だからあんまり女体を描くのに慣れてないんですね。

    ヤマザキ) 私は逆に若い頃にデッサンばっかりやってきた人間なので、アカデミックな構図とかに捕われ過ぎて、未だに特徴をデフォルメさせて描けないんですよ。男性やお婆さんならいくらでも描きたくなるのですが、とにかく若い女性を描くの苦手で、ほとんど自分の漫画には出てこないんです。ピアノでもクラシックしか弾けなくて、ジャズのインプロビゼーションとかが出来ないのと同じです。そう考えると手塚先生は、おっぱいは大きくて、腰はくびれていて、足は小さくて…みたいに女性を美しくデフォルメして描けていらっしゃるから、素晴らしいなと思います。

    手塚      だから女性の絵は安定しないんですよね。まさにアドリブですよね。

    ヤマザキ) そのアドリブ感がとてもゾクゾクするというか。

    手塚      でも本人は絵がうまく描けないのが、コンプレックスだったみたいで。このあいだラクガキがいっぱいでてきたときも、その中に他の先生方のちょっとエロい絵の切り抜きも出てきたんですよ。参考にして、一生懸命に練習してた様子が伺えるんです。あとエッチな雑誌の切り抜きとかもあった。その切抜きを原稿に貼ってなぞっているんですよ。顔だけ自分のキャラクターで、身体はそのグラビアで。そんな風に練習しているのを見てしまうと、あらためてすごいなと思いました。手塚治虫なのに練習するんだって。

    ヤマザキ) なにか胸にぐっと来るものがありますね。

    手塚      実際の女性の身体の線を学ぼうとしているんでしょうね。若い頃に描いていた漫画にはなかった要素だから。

    ヤマザキ) 手塚先生っておそらく基本は理系脳の方ですよね。だから分析して描いちゃったり…そういう方は例えば機械の構造とか想像したり描いたりするのが得意なのでしょうけど、アナログな表現となると別なのかもしれないですね。

    手塚      得意としてなかったでしょうね。だからそんな風に健気に練習してて、ちょっと可笑しかった。そうまでして描きたいんだって思いが見えてしまって。でも、笑えるんだけど、すっごい努力していたってこと感じられて。

    ヤマザキ) 一連の作品を読んでいると、手塚先生は基本的に色気のある女性より、少年っぽい女性が好きなのかなという気がします。ジェンダーの無い感じの女の人が好き。ブラック・ジャックの如月先生とか。如月先生は象徴的なものに感じます。サファイアもそうですけど、ジェンダーのない女性が魅力的。

    手塚      ジェンダーの無い女性を描くのはやはり宝塚歌劇の影響が大きいのではないかと。

    ヤマザキ) フランスでの女性のほめ言葉に「あなたは少年のようだね」っていう例えがあります。それはヨーロッパ的な表現ではあるのだろうけれど、女性らしさというものだけが賞賛されるわけではなく、邪念の無い、古代の神々から愛される少年のような美しさ、という捉え方もあるのですね。それを踏まえて考えると手塚先生の描く、ジェンダーのない女性論というのは、究極の女性というイメージがありますね。実際私は子ども心に如月先生に憧れ、如月先生のようになりたいと思っていた事があります。まぁ、ブラック・ジャックが好きだから、彼の嗜好に叶うような女性になりたいということもあるのですが。

    手塚      如月先生やサファイアのようなジェンダーを超えた女性から、奇子のようなすごいエロティズムをもった女性まで描いてみたいという気持ちになったんでしょうね。

    ヤマザキ) 劇画だってここまでしないでしょう、と思うような、大胆な展開にされていることもありますよね 

    手塚      それを今回の美女画展で知ってもらいたいのですよ。手塚治虫といえば、いまや教育的なポジションにおかれてしまっていて。だけど実はすっごいエロも描いているんですね。その部分に惹かれている人は沢山いるんですけど、それを目にする機会はどうしても少ない。だから今回あえてそれを狙ってやるんですよ。たとえ父兄に文句言われようとも。
    『ブラック・ジャック』如月先生

    『ブラック・ジャック』如月先生


    カテゴリーのあいまいさ

    ヤマザキ) そうやって既成概念を踏襲していかないと、周りが作りあげた作家像がそのまま固定化してしまったりしますからね。私もテルマエ・ロマエで名前が知れたせいで、その後の作品では「あれ?全然ギャグが無いけどどうして?」と言われまくりました。私は可笑しい話も作るけれど、ギャグ漫画家というカテゴリーに属している自覚はありませんでした。でも自然にそういうイメージが固定化してしまっていたようで、数年前には「ギャグ漫画家大喜利」にも参加したんですよ。私ってギャグ漫画家だったのか!みたいな(笑) もちろんそういう要素も重ねて持っていたいとは思ってますけどね。

    手塚      だったらテルマエは(手塚賞ではなく)赤塚賞ってことになりますよね。

    ヤマザキ) カテゴリーのあいまいさっていうか、どんな作家も意外と本人が思っているような読まれ方をしていないってことなんですよね。そういう意味では、手塚先生は健全な明るい未来を担う青少年の為の漫画家というイメージが強いから、数々の大人向けの作品も含めて多元的な作品を取り組まれていた事を思うと、その固定概念はかなりもったいないなあと思います。

    手塚      手塚自身が一番そうやって限定されるのが嫌で、違う方向に違う方向にと天邪鬼に描いていたんです。でも今は本人がいないからそれができないじゃないですか。だったら自分がやっぱりやっていかなきゃ、父が可愛そうだなと思って。最近なんて、手塚治虫をちょっとでもいやらしくすると、それこそ田中圭一だとか言われて。そうじゃないでしょって。元祖もエロ描いてますよって。

    ヤマザキ) そうですね。まるで田中圭一さんがその先駆者のように思われてしまっている傾向はありますが、実はご自身も結構辛辣なジョークものも描いていらっしゃいる。先頭にブラック・ジャック、火の鳥、アトム、ジャングル大帝があると、なかなか正統派のイメージ以上のものを想像してもらうのが厳しいですよね。意外性を知ってもらうために、せめて「奇子」だけでも読んでもらえればいいのだけど。

    手塚      ブラック・ジャック、火の鳥などが人気があるなか、唯一、奇子が売上げの上位に食い込むんですけど。その奇抜性がいいのか。芸能界と同じですよね。事務所がタレントをこういう風に売り出そうと決めてしまう。大衆ウケのいいように。漫画もそうなりますよね。出版社やプロダクションに決められていく。
    ヤマザキ) 商品として成立する、ウケの良いキャラクターが作られていくんですよね。でも意外性はやっぱり必要だという気もします。既成概念から外れたものが多ければ多いほど、信じていたとおりにならないものを認めなければならない機会が増えるほど、感性は熟成されていくものなので、そういう意味では日本って規制だらけで残念だな、と思うことが頻繁にあります。戦後、アメリカの影響で妙なピューリタニズムが入ってしまって、江戸時代までは楽しめた筈の自由な感性もいろいろとダメになってしまっているから、もったいない。

    手塚      そうですね。昔は自由に描いていたものが、規制によって描けなくなるとか、映画だと上映できなくなるとか、なにか変ですよね。

    ヤマザキ) それこそ浮世絵の世界だって、春画とかモザイクを付けられたりしているけど、あれはもともとそんなモラルの規制が施されているものではなかった。

    手塚      テルマエ・ロマエの表紙の裸体は大丈夫だったんですから。

    ヤマザキ) あれはコミックビームの編集長から「風呂に入るのに桶でいちいち隠す奴がどこにいる」って言われて。裸像を描くならもろ出しでいけと(笑)。でもやっぱり編集会議で上の人からは「素っ裸で丸見えはまずいだろ」と言われたそうなのですが、結局編集長はこれじゃない出さないと意地を貫き、それであの表紙が叶ったのです。ところが本には帯がついていて、テレビで紹介されるときは必ず腰の位置まで帯が上げられてしまう。規制が厳しいアメリカでの翻訳が出版される時は、本に透明なカバーがかかっていて、ちょうど腰のあたりにテルマエ・ロマエと書かれているんです。買った人だけがめくれますよ、みたいな。逆にそれがいやらしい感じでしたけどね。

    手塚      そうなんですね。ヨーロッパとかは?

    ヤマザキ) ヨーロッパは大丈夫でした。こういったものが普通に街中や美術館にはにおいてありますから。ギリシャ・ローマでは人間の裸体は美しいものと賞賛されてきたわけで、それを規制することがおかしい。女体だけでなく、男の人の裸にまでこんなにガミガミいわれるとは思っていなかったので驚きました。二巻の冒頭で男根信仰の漫画を描いたときも、読者からのバッシングがひどくて。「せっかく順調にきてたのになぜこんな読者を振り落とすような漫画描くの!」って言われて驚きました。日本だって道祖神信仰とかあるわけですから、全く変な事を描いているつもりはなかったのに、読者の抱くテルマエのイメージではなかったんでしょうね。確かに健全な手塚漫画ばかり読んで来た読者が、いきなり奇子やばるぼらを読めばショックかもしれません。でもそれが読者の方の想像力をよりいっそう高める大きなきっかけにもなると思うのです。もっともっと漫画世界を楽しんでもらうのに大事な事ではないかと。

    手塚      脳にカッと穴があく瞬間ありますよね。

    ヤマザキ) そういった作品をもっと手塚ファンの若い人達にも読んでもらえればって思いますよね。
    基本は生き物として捉える

    ヤマザキ) 手塚先生の描く動物ってかわいいじゃないですか。猫とか犬とかウサギとか、背中の曲線やおしりのあたりがしなっているところとか、エロティックで思わず見入ってしまいます。メス猫とかの表現もすごいですよね、色っぽくて。

    手塚      あと、女の人が猫になっちゃうというシチュエーションとか。動物のメスをよく描きますよね。子供の頃に猫を飼っていたので、たぶん猫派じゃないかと。私が子どものころには死んじゃっていなかったんですけれども。『リボンの騎士』でヘケートが猫に変身するシーンとか、今見ても色っぽい。子供の頃にあれを見て、女の子は猫に変身するんだってイメージがインプットされました。けっこう多いんですよ、女の子が猫になるっていうシーン。

    ヤマザキ) 確かに猫って身体の形や仕草に色気があるじゃないですか。

    手塚    
     身近な動物だったから。やっぱり猫の身体のしなやかさって影響あるんですかね。

    ヤマザキ) 生身の女性よりも、猫のような動物にエロティシズムというものを感じていらしたんじゃないかと思う事もあります。

    手塚      女の兄妹がいたっていうのもあるかもしれませんね。すごく仲良かったみたいですし。女性キャラにはその影響はあるでしょうね。その後に宝塚があって。恋愛の経験は、母に聞くと、そんなになかったみたいです。自伝漫画の回想シーンとか見ても、そんなになさそうだし。

    ヤマザキ) 実は私、子どもの頃は動物や虫の絵ばかり描いていたんですよ。特に虫が大好きで。手塚先生が感じていらした虫へのシンパシーは私にもありました。

    手塚      虫も模写してるから、虫のぐにゃっとした曲線とかも女性の身体の描きかたにでているのかもしれないですね。基本は生き物なんですね。

    ヤマザキ) ピノコとか虫っぽいかなって思いますね。かわいい虫。

    手塚      I.Lで下半身が虫になっている女性と添い寝している絵があって、私は気持ち悪いと思ったんだけど、あれをみてエロいと感じる人もいるんですよね。たぶん本人が描きながら一番それを感じているんだろうけれど。

    ヤマザキ) それが手塚先生のエクスタシーなんでしょうね。人間の女性の裸を見るよりも、虫を見ている方が実はゾクゾクしていらしたのでは…

    手塚      昔、漫画家の先生たちと台湾にいったときに、他の皆さんはストリップを見に行こうとなったのに、うちの父だけは、動物と女の人がまぐわっているショーがあるらしいから、そっちを見に行こうと言ったらしいんですよ。()

    ヤマザキ) エロ的なものでなく、動物と人間が一緒になるっていうことに興味がおありだったんじゃないですか。()

    手塚      大きくいえば、変態ってことなんですけれど。性欲より好奇心のほうが勝るんでしょうね。女の人の裸を見てむずむずしたいって欲求なら、みんなストリップ行くじゃないですか。動物と人間がまぐわっているのはどういうものなのかという好奇心と、人間からは得られないエロティズムをそこで感じて楽しむことがしたいんでしょうね。

    ヤマザキ) 性欲っていう単純な次元のものではなくて、エロティズムって複雑な精神性からきてるじゃないですか。ご本人の納得のいくエロティシズムを求めていると、そういうことになってしまうのかもしれませんね。


    アマゾンの取材先で見た手塚治虫の足跡

    ヤマザキ) 私、ジャングル大帝がすごく好きなんですけれども、さっきも言ったように手塚先生は人間すらも、地球上のひとつの生き物として客観的に見られていたんじゃないかと思っています。さっきの動物とのまぐわりに関しても、無いほうがおかしいんじゃないかっていうくらいの解釈をされていたのかも。北海道の熊牧場で熊を見た時、雄熊がでっかくてかっこよかったんですよ。こんな男らしい熊に抱かれて安心して眠りたいな、と思ってしまった(笑)

    手塚      その境界を越える瞬間ってわかります。私も大好きなドラマーがいるんですけれど、もし生まれ変わるならあの人に叩かれるドラムになりたいって思いますもん。あんなに愛されて響かせてもらえるなら、あのドラムになりたいって。()

    ヤマザキ) わかります。別に愛情の対象って人間でなければならない理由はないですからね。

    手塚      そういえば熊牧場、子どもの頃に行きましたよ。

    ヤマザキ) 熊をあんなに身近に見られる場所はありませんからね。アイヌの人達の間ではキムンカムイ「山の神」っていう名前がついているくらい迫力があるし、あの動物と山の中であったら、絶対不可抗力じゃないですか。人間の無力さが露わになる。私は動物の視点で世界が展開されるジャングル大帝が大好きなのですが、子供の頃はアニメのオープニングでサバンナを駆ける動物達に、自分も混ぜて人間代表で走りたい!って思っていました。

    手塚      ジャングル大帝はレオが自分たちの新居として家(城)を建てたり、肉食動物と草食動物のためにレストランをつくったり、普通の動物好きでは考えつかないような、動物界を描いている。ライオンキングとかには無かったですからね。

    ヤマザキ) 欧州の人間には、そういう発想はできない。ライオンキングでは無理ですね。

    手塚      平和の考え方が違うんでしょうね。肉食動物と草食動物がケンカしないために、レストランをつくるっていう発想がないですよね。

    ヤマザキ) 西洋人にとっては、動物ってやはり人間より下等なんですよ。私がヨーロッパとかへ行って、カブトムシとか見つけてくると、「やめなさいゴキブリさわるのは!」って言われました。ゴキブリとカブトの差異が解らない。そういえば、以前アマゾンに行った時、爬虫類博物館みたいな施設の人に「昔、ここに日本の漫画家さんが来たことがあるよ」と言われことがあります。「その人は時間があればどこでも漫画を描いていた」と言っていました。後にそれが手塚先生であったことを知ったのですが。

    手塚      アマゾンへ取材って、何の漫画になったんだろう。

    ヤマザキ) 興味がありますよね。締切が迫っている全然違う漫画を描いていらしたかもしれないのだけど。ちなみにわたしはその旅で、エレファスオオカブトっていう昆虫界最大のカブトがいるんですけれど、それを見つけて同じ宿舎に滞在している多国籍の人達に見せたら、「ぎゃー」って悲鳴を上げて散っていきました。あの時手塚先生がいらしたら、さぞかし興味を持って下さっただろうに…

    手塚      あんなに身近にいるものなのに、嫌がるんですね。

    ヤマザキ) 虫に対する拒絶反応は半端ないですね。私たちアジアの人間は虫一匹に対しても、リスペクトがありますよね。でも西洋の人で虫を愛でる人には、専門家でもない限り出会いませんね。アイヌのような自然崇拝の名残がどこかで感じられるわけでもないから、動物に対しても同じ。だから(ディズニーの)ライオンキングも違う捉え方をしてましたよね。

    手塚      人間性だったり、価値観がそもそも違っているんでしょうね。うちの父も唯一蜘蛛が大嫌いで、蜘蛛がでたらぎゃーって逃げてましたね。玄関先に蜘蛛がよく巣を張るんですけれども、父はそれがイヤで、門柱のところに「蜘蛛の巣を払うための棒」が置いてありましたね。蜘蛛の巣が嫌いだったのかな。

    ヤマザキ) 虫好きだったらたいてい蜘蛛も平気なはずですが。

    手塚      蜘蛛は見ていて面白いですからね。

    ヤマザキ) 虫好きの私はイタリアにいても奇人と思われ、日本にいても変な女と思われ、でも手塚先生の漫画があったからなんとかなっていたのかもしれません。多くの人にとっては手塚先生といったらSFのような世界観で影響を受けたと思いますが、私にとっては動物観だと思うんですよ。だから、エロティズムすらも、手塚先生の描く動物にも感じてしまうのでしょうね。

    手塚      手塚治虫はヤマザキマリという作家にすごい興味をもつと思いますね。生きてたら、とり・みきさん以上に一緒に仕事をしたがったんじゃないですか。
    『ジャングル大帝』

    『ジャングル大帝』


    変人好きのルーツ

    ヤマザキ) 手塚先生はわりと古典だったり古代の物語を漫画にしてるじゃないですか、火の鳥だったり。私はそれを読んだことで、古典を自由に漫画として描いてもいいんだと思ったんです。火の鳥は私の子供のバイブルでもあるのだけど、新しい読者も絶えないですよね。

    手塚      亡くなって25年もたって、売れているのはありがたいことなんですけれど。700タイトルもの作品を描いているのに、5つ6つのものしか知られていなくて、本当にもったいないと思います。

    ヤマザキ) たとえばメジャーなブラック・ジャックとかでも、短編の中に詰め込めるだけの思想が全部入っているじゃないですか。本当は分散して描きたいコンテンツを、全て集約させてしまっているんじゃないかと思わせる、そのテクニックが凄い。ブラック・ジャックは社会に対する歪曲した見方や思想が発芽するきかっけを与えてくれる漫画でした。あのような短編の軸から、手塚漫画の世界は何通りにも分散化し、発達しているのではないかと思わせられますね。

    手塚      いま多くの読者は手塚漫画の入り口がブラック・ジャックなんですけれど、あの漫画からこうもいけるし、ああもいける。すごくいろんな方向性があるんです。医療漫画って大概は舞台が病院じゃないですか。でも、ブラック・ジャックはお医者さんの漫画なのに病院がほとんど出てこない。もとより無免許ですしね。

    ヤマザキ) とり・みき先生も今やっている合作漫画プリニウスでいろんな面白いものを描いて下さっていて、例えば私がリクエストした腐乱死体も、もの凄い描写力で表現して下さる。プリニウス自体は動きのある漫画ではないのだけれど、ブラック・ジャックで学んだあの手術現場や内臓の構造が惹き付ける興味深さを、プリニウスでも展開できたらいいなと思っています。思い掛けない描写を経由して、一見つまらなさそうな漫画に読者を引込める事がありますからね。テルマエ・ロマエも、敷居が高いものだと思われていた古代ローマ世界を、お風呂っていう分かりやすいものに敷居を下げただけで沢山の方に読んでもらえる事になりましたから。手塚先生に読んでもらいたかったです。

    手塚      そんなテルマエが手塚の名前の賞をとっていただけてほんとによかったと思います。

    ヤマザキ) ありがとうございます。当時リスボンに住んでいたのですが、急に編集長から電話がきて、「おい、大変なことになったぞ!なんかお前、手塚さんの賞を獲ったぞ!」って言われてびっくりしました。一巻しか出て無いし、おまけにノミネートすらされていなかった。賞とか漫画を描く時はあまり意識してませんが、手塚治虫文化賞については大尊敬する作家の名前のついた賞ですから率直にうれしかったです。

    手塚      手塚文化賞はいろいろな先生方が受賞されていて、それぞれすばらしい作品なんですけれども、審査員が選ぶのであって手塚本人が選ぶわけじゃない。でもテルマエは手塚が絶対に選ぶだろうなって思います。

    ヤマザキ) そう言っていただけて、たまらなく嬉しいです。

    手塚      手塚はもう亡くなってますけど、私は別の次元に生きているって思ってるんですよ。5次元とか6次元に存在してて、同時に時間は進んでいるので、たぶんヤマザキさんと私の会話も、ここで聞いていると思うんです。

    ヤマザキ) 人との繋がりを横軸で括るのではなく、縦軸方向で考えるという事ですね。確かに私が影響を受けたり好きになるのは過去の人ばかりです。全員故人。だから直接意見交換したり、感想を伝えることはできていないけれども、頭の中では、例えば手塚先生だったらこの作品を何と思われるだろう、とか、こういう事おっしゃるんだろうなと想像をしてしまう。私はいまジョブズの漫画を描いますけど、描きながら、あの人は気難しいからこうしたほうがいいかな、なんて緊張しながら描くわけですよ。見えない人の反応を想像しながら漫画を描くのが好きなのかもしれません。

    手塚      ヤマザキさん、変人を描くのが好き。

    ヤマザキ) 昔から変人は好きなんですよ。子供のころから人間と付き合うより虫や動物と接していた方が好きだったわけですから。人間に惚れろっていわれたら、何となくマイノリティの強烈な特徴のある変人を好きになってしまう。偏屈で帰属を拒絶する人が好き。それが培われた要素のひとつに手塚漫画があったのは明らかですよ。ブラック・ジャックが理想の男性になってしまった人は、私だけではないでしょう。

    手塚      多いですね。あんな顔に傷がある人のどこが魅力なんだろう。

    ヤマザキ) あの人の妻になるのは大変でしょうね。ほっとかれて、気難しくて。どちらかと言うと王子様ではなく歪んだ悪者の要素が強い。でもどんな男性よりも魅力的。

    手塚      もともとあの作品はサスペンスものとして、ブラック・ジャックも悪者として描こうとしていたんですけど、それがいつのまにかヒーローっぽくなっていて。しかも如月先生と恋愛もしているし。ピノコも畸形嚢腫だったのにその後は可愛らしい存在に描かれている。それで女性ファンがわぁって盛り上がっちゃって。

    ヤマザキ) ブラック・ジャックのエピソードで、売れっ子のホステスをしている女の人と出会ったブラック・ジャックが三白眼で「おまえさんはきれいだからね」って言うところがあるのですが、子供心ながらに、ブラック・ジャックの男臭さがちょっと衝撃でした。「この人も普通に綺麗な女が好きなんだやっぱり」って(笑)

    手塚      「おまえさん」って呼ぶところがまたいいんですよね。シンパシーがある。宝塚の女優さんたちも、ブラック・ジャックが好きっていうんですよ。

    ヤマザキ) 手塚先生も意外に思われていらっしゃるのでは。

    手塚      たぶん連載していた頃はそんなに女性ファンは表面化してなかったんじゃないかと。手塚が亡くなった後、女性に人気の作品になったような気がします。

    ヤマザキ) 私も読んでたのは70年代。チャンピオンの連載当時でした。あの頃は女性ファンが付き添うな雰囲気には確かに見えなかった。でも、このところブラック・ジャックがBLの分野でも展開されているようで、凄いなあと思いました。ブラック・ジャックはいかなる方向にも読み進めていける漫画のフォーマットとも言えますから、そういう成り行きも大いにありなんでしょうけれど…凄いなあって。
    手塚治虫作品のこれから

    ヤマザキ) 「これが手塚作品なんですか!?」というようなものを映像化したらおもしろいかなあと思います。奇子はフランス人の監督や俳優で映画にしてもいいのかもしれない。手塚式のアンモラルな要素を、海外の監督が撮ったら面白いのかもしれないですね。

    手塚      手塚作品は設定が事細かく描かれているから、それを監督される方は実写化するのは凄く難しいといつもおっしゃるんですけど。

    ヤマザキ) でも、手塚作品の中でもなまなましい人間性を持つものは実写で見てみたい思いはあります。

    『奇子』

    『奇子』

    手塚      海外の監督が読んで、どういう解釈で映画化するかというのは見てみたいですね。

    ヤマザキ) 手塚治虫の「健全な少年漫画家」というイメージは海外でもやはり固定化しています。でも、大分前に(イタリア人の)旦那が机の上においてあった奇子をちらりとめくって、ええっ、これが手塚!?と驚いていたことがありました。手塚先生の意外性は日本だけでなく、世界においても、もっともっと露顕して欲しいなと思います。それが、ニッポンの漫画という世界の広さと奥深さや多面性を伝える為の、一番解り易くて早い方法でもあるような気がしますからね。

    手塚      そういうものがこれからどんどん出ていって欲しいですね。
    手塚作品を話題の中心とした二人の会話は尽きることなく、瞬く間に対談の時間は経過していきました。

    現在、漫画家とり・みきさんとの共著「プリニウス」(新潮社)を「新潮45}誌上にて連載するヤマザキさん。執筆の傍ら、とり・マリ(とり・みきさんとの音楽ユニット)でのLIVEやトークイベント等活動の場を広げている。奇人「プリニウス」を描いた漫画作品や漫画家の枠にとらわれないヤマザキさんの今後の活躍にも注目です。

    次回の「手塚治虫の美女画展」×「MangaStyle」特別対談は手塚るみ子さんと漫画家、喜国雅彦さん&国樹由香さんをお迎えします。1027日公開予定、次回もお楽しみに。

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    ヤマザキマリ(やまざき・まり)
    漫画家

    1967年生まれ、東京都出身。1981年、ヨーロッパの一人旅で知り合ったイタリア人の陶芸家に招聘され、1984年に単身でイタリアへ。フィレンツェの美術学校で油絵の勉強を始める。1997年、初めて描いた漫画で講談社の新人オーディションに受かり、以後漫画家として活動。比較文学を研究するイタリア人との結婚を機に、エジプト、シリア、ポルトガルを経て現在は夫の勤務する大学の所在地シカゴに在住。2010年、古代ローマ人浴場技術者が主人公の『テルマエ・ロマエ』で2010年度漫画大賞、手塚治虫文化賞短編賞を受賞。

    ◇主な著書

    『テルマエ・ロマエ』(BEAM COMIX 2009




    手塚るみ子(てづか るみこ)
    プランニングプロデューサー。

    東京都出身。広告代理店を経て、手塚作品をもとに独自の企画を創作するプランナーとして活動。音楽レーベルMusicRobita主宰。手塚プロダクション取締役。父は漫画家の手塚治虫。著作に「オサムシに伝えて」、「ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘」等。2014年11月3日から9日迄開催される「手塚治虫の美女画展」をプロデュースしている。

    「手塚治虫の美女画展」 https://www.facebook.com/tezukabijoga

    対談場所:「キアズマ珈琲」
    住所:東京都 豊島区雑司が谷3-19-5
    電話番号:03-3984-2045

    「キアズマ珈琲」公式Facebookページ
    https://www.facebook.com/kiazuma

    (執筆/MangaStyle 木瀬谷カチエ 撮影/小林 裕和)